カニエ・ウェスト「出産した母親に100万ドル」 初の選挙集会

Lauren Petracca Ipetracca / The Post And Courier via AP

 2020年の大統領選挙への立候補を表明したカニエ・ウェスト氏。最初に行った選挙演説は、実に奇抜で型破りなものだった。ウェスト氏はまず、出産して新たに母となった女性全員に対し、1人あたり100万ドルを給付すると提案。また、黒人奴隷の解放を目的とした秘密結社「地下鉄道」の活動で知られる歴史上の偉人、ハリエット・タブマン氏を批判した。

 しかし、ラッパーとファッションデザイナーという2つの顔で知られるウェスト氏が、次期合衆国大統領の座をどこまで本気で狙っているのかは、いまなお疑問だ。

 7月19日、サウスカロライナ州ノースチャールストンで数百人の聴衆を前にして、ウェスト氏はハリエット・タブマン氏に関し、「実際には奴隷を解放したわけではなく、ほかの白人のために働くうよう仕向けただけだ」と発言。これに対して、聴衆のなかから抗議の声が上がった。

 アメリカ史上の偉人として、最も尊敬を集める人物の1人に数えられるハリエット・タブマン氏。自ら奴隷の身分から抜け出した彼女は、奴隷として扱われる黒人たちを「地下鉄道」と呼ばれる秘密結社の活動を通じて北部へ逃がし、南北戦争においては北軍に協力して戦った。タブマン氏は後年、女性参政権運動の支持者となった。

 7月19日に立候補表明のイベントを行ったウェスト氏だが、結果的に、サウスカロライナ州における無所属候補として投票用紙に名を連ねる資格を得ることはできなかった。同州選挙管理委員会のクリス・ウィットマイアー報道官によれば、州法の規定で大統領選挙の無所属候補に求められる「1万人分の署名の提出」を行った候補者は、7月20日正午の締め切りの時点で、ウェスト氏を含めて1人もいなかったという。

「どの候補者の選挙事務所からも、署名の提出はまったくありませんでした」とウィットマイアー報道官は話す。

 これ以外の複数の州でも、大統領候補として投票用紙に記載される資格を得るのに必要な申請手続きを、ウェスト氏は定められた期限内に行っていない。実際にこれらの州で、申請に必要な数の署名を集める意思または能力があったのかどうかも不明だ。その一方で、オクラホマ州においては、大統領候補として投票用紙に名前が記載される資格を認められた。同氏が期限内に無所属候補としての認定要件を満たしたのは、同州が初めてだ。

 テレビのリアリティ番組でカリスマ的人気を誇ったキム・カーダシアン・ウェスト氏を妻に持つ、有名ラッパーのカエニ・ウェスト氏は、7月4日、初めて大統領選への立候補を表明。自分はいま、トランプ大統領を支持していないとも述べている。

 20日の選挙イベントでは、ウェスト氏は防弾ベストを着用し、頭部に「2020」の剃り込みを入れた姿で登場した。そこでは、人工妊娠中絶は合法であるべきとの立場を強調しつつも、望まぬ妊娠によって苦境に立たされている母親たちへの金銭的インセンティブを設け、彼らに中絶を思いとどまらせるべきだと主張した。また、自分の父も実際に、自分が母の胎内にいる時期に人工妊娠中絶を望んでいたと、自らの家族について語った。

「赤ん坊を産んだ人には誰でも、100万ドルを支給します」とウェスト氏は具体的に述べ、次のように付け加えた。「現在、私にはその資金がありません。しかし私には、そのアイデアを共有するプラットフォームがあります」

 20日のイベントでは、マイクを使わずに演説を行った。そのなかでウェスト氏は、2007年に美容整形手術後の合併症で死去した自分の母の話題に触れ、涙で声を詰まらせた。また、企業の取締役会のメンバーやスポーツチームのオーナーシップ保持者に人種的マイノリティの出身者が少ない現状を批判し、自分自身が取締役会のメンバーに指名されない場合には、アディダスとギャップの2社とのビジネス契約を破棄する可能性があると警告した。

「契約破棄のリスクの有無は脇に置くとして、私がアディダス社の取締役会のメンバーに入れないのは納得できません」とウェスト氏は話す。「ギャップ社の取締役会にも入れません。その現状は、今日、この日をもって変わるべきです。それが実現しないなら、私はこの2社から離れます」

By MEG KINNARD Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP