「女性リーダー」は賞賛されるべきなのか いま求められるリーダーとは

Mark Mitchell / New Zealand Herald via AP

◆語りかける、偽りのないリーダーシップ
 アーダーンは現在、国の過去1世紀を遡って最も人気のある首相だ。ニュージーランドの5月の統計(Newshub-Reid Research Poll)発表によると、アーダーンが所属する労働党の支持率は、前回から14ポイント上昇して56.5%。アーダーン自身の首相としての支持率(より好ましい首相、preferred Prime Minister)は、20.8ポイント上昇して59.5%。コロナ対応が評価された結果が、直接的に支持率に反映されている。

 豪エディス・コーワン大学で教鞭をとり、リーダーシップ・組織論を専門とするアンドレイ・アレクサンダー・ラックスは、アーダーンが支持され、効率よくリーダーシップを発揮できている最大の要素は、彼女の信頼性・偽りのなさ(authenticity)だと分析する(カンバーセーション)。彼の組織研究の調査では、組織のリーダーを信頼できると感じることで、人々は組織に対してより前向きになり、エンゲージメントが高まるという結果が出た。これは職場を対象にした調査だが、国のリーダーと国民の関係にも当てはまるものだとラックスは考える。

 アーダーンは、ステイ・ホーム施策実施以降、自身のフェイスブック上で定期的に国民とライブ対話を実施している。ときにスウェット姿で、片膝を立てたりしながら、生活感が出すぎるぐらいの姿勢で語りかける彼女からは、偽りのなさが滲みでている。

 語りかける、偽りのないリーダーとして、思い起こされるのが米国のバラク・オバマ前大統領。弁護士になる前、コミュニティ・オーガナイザーをしていた彼は、常に語りかけ、対話する姿勢を見せた。彼の演説力はよく知られているが、必ずしも力強いメッセージだけが強みではない。任期中、度重なる銃乱射事件で子供を含めた多くの国民が犠牲になるたび、彼は感情を露わにしながら語りかけた。

 トランプの就任以来、控えめに存在していたオバマだが、最近、少し積極的に発信し始めた。5月16日、オバマは黒人のために設立された大学と全国の高校のオンライン上の卒業式、それぞれの場で演説をした。残念ながら信頼性とは真逆の要素が目立つトランプ政権下において、国民のみならず、世界のオバマ支持者が注目。「もし」という仮定は無意味だが、「もしオバマがいま大統領だったら……」という思いを抱いた聴衆も少なくないだろう。

 国民と近い立場に立つという意味で、若者や子供と対話し、語りかけるという姿勢は、より人間的で偽りのないリーダーシップの究極的な姿かもしれない。3月16日、ノルウェーのソルベルグ首相は、子供向けのプレス会見の場を持ち、子供たちからの質問に対応していた。

 こうした人間性とリーダーシップのあり方に関し、オランダの歴史学者、ルトガー・ブレグマンが興味深い見解を示している。ベーシックインカムの提唱者としても知られるブレグマンは6月3日、ルーク・ロバート・メイソンの英ポッドキャスト番組『Futures』に出演。新著『Humankind: A Hopeful History(人類:希望に満ちた歴史)』の解説のなかで、性善説的な人類の資質とリーダーシップの関係について言及した。

「長い歴史を経てヒト(人類)が地球を治めることに成功してきた資質は、他者とのつながりを持ち、連携協力することや、ときに恥じらいを持つことなどだ。権力という麻薬のようなものに侵されると、リーダーはまさにこうした資質を失う」とブレグマンは主張する。

 人類が共通の危機にさらされるなか、世界各地で見られる連携協力の姿勢は、ブレグマンが言うような希望が持てる人類本来の姿かもしれない。その文脈において、やはり求められるのは、権力を誇示する厚かましいリーダーではなく、対話でつながりを求め、人間性や感情をストレートに表現する、偽りなきリーダーだろう。

Text by MAKI NAKATA