汚職撲滅に動き出したバングラデシュ首相 与党議員に逮捕者も

AP Photo / Mahmud Hossain Opu

 黒装束の治安部隊数十名が、バングラデシュの首都にあるスポーツクラブに押し入った。そこでは、クラップスやルーレットに興じるギャンブラーたちからの「ベット(賭け)」という掛け声が響いていた。

 ギャンブラーたちが床に伏せるよう命じられている間、警官とバングラデシュ警察の先鋭部隊「緊急行動大隊(RAB)」は現金の詰まった鉄製貯蔵庫をこじ開けた。RABは通常、対テロ軍事作戦の重要任務に携わる。強制捜査が終了する頃には140名以上が手錠をかけられ、仮設のカジノ場から連行された。

 同じ頃、首都ダッカの別の場所では、カジノを主催した容疑でカリド・マムード・ブイヤン氏の自宅が特殊部隊によって家宅捜査されていた。同氏はシェイク・ハシナ首相率いる与党の有力メンバーである。そして、隠してあった酒類、現金、違法の武器が見つかった。

                                                                                                                 

 強制捜査は、政治的腐敗の根絶を目指してハシナ首相が始めた作戦の一環である。イスラム教国であるバングラデシュでは、ギャンブルは違法であり、飲酒には許可証が必要である。また、法律違反者のみでなく、通常の行政サービスを依頼する際にも賄賂を支払うことが広く浸透している。ハシナ首相率いる与党アワミ連盟は、2018年12月の選挙で圧勝した。勢いに乗った首相は政治的腐敗の根絶を政府の優先事項に掲げると宣言し、盟友関係にあっても特別扱いはしないと公約した。

「汚職や強要、非合法的な行為が、与党内に根深く浸透してきたことが認識されているということです。腐敗撲滅作戦が及ぼす影響力がどの水準にまで到達し得るのか、今後の課題です」と、イリノイ州立大学政治学教授であり、バングラデシュ政治研究を専門とするアリ・リアズ氏は述べる。

 さらに「カジノや抑制のきかない党幹部の権力は、政治的腐敗の氷山の一角に過ぎず、この国に責任の所在がないことを示しています」と指摘する。

 2019年9月から始まった腐敗撲滅作戦によって、違法カジノの経営やマネーローンダリング、武器の不法所持の罪で、これまでに数名の与党議員が逮捕されている。そして、治安部隊によって数百万ドル相当の現金や武器、金貨が押収された。凍結された銀行口座数は600以上にのぼる。

 このような強制捜査の実現が可能になったのは、これまで10年にわたって国政の実権を握ってきたハシナ首相の絶大な権力が行使されたからだ。

 ハシナ首相が毅然として率いる与党は96%を占める議席数を獲得しており、国会において野党に効力はない。さらに、首相の最大のライバルであるカレダ・ジア前首相は、汚職の罪で17年間の服役中である。

 一方で、この支配体制により汚職問題がさらに深刻化する恐れもある。バングラデシュでは長年にわたり、与党議員が自らの望み通りに企業や政府からの受注契約を巧みに処理してきた。野党が完全に欠如している体制の中で、権力の座にある人々に特権意識が生じてきたと、専門家は指摘する。

 腐敗に取り組む国際的なNPO団体、トランスペアレンシー・インターナショナル・バングラデシュ支部のイフテカール・ザマン事務局長は、「バングラデシュでは、投資と政治は同義である」と述べる。政治と企業、そして官僚組織と警察機関の癒着によって政治的腐敗の「基盤」が構築されてきた。

 ハシナ首相が腐敗撲滅作戦を始めた時、政治的腐敗が悪循環に陥れば、2007年1月に起きた事件の二の舞を踏むことになりかねないと認識していたようだ。軍の影響下にある暫定政府によって政権が掌握された事件は、勃発した日を採って1/11として国民に知られている。

「この国で1/11のような事件が二度と起きないように、あらかじめ措置を講じている。腐敗はまず身内から一掃しなければ」と、2019年9月、ハシナ首相は表明している。

 建設会社の経営者であり、与党とつながりがあるG.K.シャミム氏は、先日逮捕された1人である。同氏が汚職捜査官によって告発された公共事業には、腐敗撲滅作戦で強制捜査を行った治安部隊「緊急行動大隊(RAB)」本部の建設事業が含まれる。

 政府の腐敗撲滅委員会は現在、違法カジノやマネーローンダリング、その他金融犯罪に関与した疑いのある20名以上について捜査を行っている。いずれもハシナ政権の中枢を担うメンバーであるが、中には与党でも影響力のある青年組織の先頭に立ち、首相のいとこの夫でもあるオマル・ファルケ・チョウドリー氏がいる。首相が招集した会合において、捜査期間中のチョウドリー氏の解任が決まった。

 カジノ経営の罪で告訴されているブイヤン氏、そしてシャミム氏とチョウドリー氏はいずれも、法廷において無実を主張している。

 ハシナ首相府は強制捜査についての首相へのインタビュー要請を拒否したが、イサヌール・カリム首相報道官が、撲滅作戦についてのコメントを一文だけ発表した。

「取り締まりを継続するとのシェイク・ハシナ首相の決意は固く、いかなる不法行為者も容赦するつもりはない」

 ハシナ首相の意欲的な開発課題にとって脅威となり得る大胆な汚職が増加していることへの対応策として、取り締まりが行われていると考えるアナリストもいる。

 ハシナ首相が政権についた2009年以降、世界第2位を誇る衣料品輸出業を軸に、バングラデシュ経済は平均して年6%超の成長を遂げてきた。この発展により数百万人が貧困から脱し、平均寿命やリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)などの人間の発達基準を示すいくつかの項目について、バングラデシュはインドなど近隣の富裕国をしのぐ状況となっている。

 一方で、腐敗撲滅作戦の関係者によると、政治的腐敗によって国の発展が阻まれる割合は年間成長率の2~3%に上るという。政府の開発予算をむしばむ「シロアリ」だと、ハシナ首相自身も非難してきた。

 これまでのところ、強制捜査中に有罪判決を受けた人への処罰は極めて軽い。与党議員であるイスマイル・フセイン・チョウドリー・サムラート氏は、ダッカ・カジノ帝国の経営と、禁制品である違法ドラッグや酒類所持の罪で、党からの除名処分と懲役6ヶ月の判決を受けた。一方、マネーローンダリングのみの犯罪では、最高で実刑12年が科せられることも十分あり得る。

 腐敗撲滅作戦は国民の支持を得ており、ハシナ首相にとって今のところリスクを伴わないことが明確に示されている。

「現時点において撲滅作戦はリスクをほとんど伴わないものだと考えています。中核を担う政党幹部にも官僚にも、また真っ当なビジネスマンにも影響が及んでいるわけではありません。あるとすれば、政党のイメージに対するリスクです」と、リアズ氏は話す。

By JULHAS ALAM Associated Press
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP