「45年までに先進国に」インドネシア・ジョコ大統領、2期目就任

AP Photo / Dita Alangkara

 インドネシア大統領ジョコ・ウィドド氏の2期目の就任式が10月20日行われた。貧困家庭出身のジョコ大統領は、民主主義を支持し政治腐敗の根絶に向けて闘うこと、そして世界最大のイスラム人口を抱える国家を近代化することを掲げ、今期で最後となるこの5年間は、より果敢に政策に挑んでいくと固く誓った。

 広大な首都ジャカルタでは、装甲車両や消防車、救急車、そして陸軍や警察が至る所に配備され、主要道路は封鎖された。穏やかな雰囲気の中で国民に向けて執り行われた2014年の大統領就任式とはほど遠い。今月10日に治安担当大臣がイスラム過激派の夫婦に刺され負傷した事件を受けて、厳戒態勢が敷かれた。

 地に足のついた取り組みで知られるジョコ大統領(58)は、厳重警戒のなか、議会で簡素な式典を行うことに決めた。5年前の就任式では式典後に祝賀パレードが行われた。ジャカルタ中心街では馬車に乗ったジョコ大統領に何千人もの支援者が手を振り、声援を送った。

 10月20日の就任式に向かう途中、ジョコ大統領はボディガードとともに警護車両から降り、支援者らと握手を交わした。人々は大統領の名前を歓呼し、赤と白の2色旗であるインドネシア国旗を振り、また父親を意味する「bapak(バパッ)」と呼び掛けていた。

 ジョコ大統領はイスラム教の聖典「コーラン」を用いた宣誓の前に、厳重な警備が敷かれている議会で演説を行った。議員や各国からの高官ら数百人を前に、独立から100年目となる2045年までにインドネシアが先進国の仲間入りを果たすことを目標にすると意欲を示した。

 大統領は就任演説のなかで、その頃までに貧困をほぼ根絶し、国内総生産(GDP)を7兆ドルに拡大したいと述べた。およそ2億7,000万人の人口を抱えるインドネシアでは国民の10%近くが生活に困窮している。

「真剣に取り組まない者には、私は容赦しない。私は確実に国民の気持ちを奮い起こすつもりだ」と、ジョコ大統領は忠告する。

 オーストラリアのスコット・モリソン首相や、中国のワン・チーシャン国家副主席など、欧米やアジア各国からの指導者や特使が就任式に出席した。東南アジア最大の経済大国でありG20参加国でもあるインドネシアでの式典に、ドナルド・トランプ大統領はイレーン・チャオ運輸長官を派遣した。

 多様性があり経済が活気づいている東南アジアは、独裁政権や警察国家、初期段階の民主主義が行きわたっている地域でもある。インドネシアはそのなかでも民主主義の屋台骨を担っている。

 スハルト元大統領による独裁政権が数十年間続いた後、1990年代後半から2000年代初期にかけてインドネシアは政治的、民族的、宗教的混乱に陥り、激しく揺らいでいた。それ以降、民主主義への移行が確立されてきた。国の大半が貧困から抜け出せず、格差が広がっている一方で、中間層が急激に拡大している。

「ジョコウィ」の通称で親しまれているジョコ大統領は家具職人の息子であり、ジャワ島のソロ市で育った。家族と住んでいた借家は洪水の多い川岸に建つ竹製の小屋であった。大富豪や、多くが腐敗している政界や経済界、軍関係のエリート出身ではない、初めての大統領である。

 ジョコ大統領は自分が大衆の味方であることを示し、自らの貧しい生い立ちを強調することも多い。ソーシャルメディアを駆使するなどの大衆性を武器に、これまで14年間にわたり、ソロ市長選、ジャカルタ特別州知事選、そして2度の大統領選を制してきた。大統領の人気を反映して、インスタグラムにはおよそ2,600万人、ツイッターでは1,200万人を超えるフォロワーがいる。

 ジョコ大統領はこれまで、バラク・オバマ氏と比較されることが多かった。しかし政権に就いて以降、軍などの強大な権力を保持する機関を脅かすような説明責任の追及を避けていると考えられている。それどころか、イスラム教への信仰心が薄いことに対する非難をかわしつつ、同時に国家主義を強調してきた。

 ジョコ大統領とともに就任式で宣誓を行ったのは、新副大統領のマアルフ・アミン氏である。アミン氏はインドネシア国内におけるイスラム教指導者の重鎮である。信仰心の厚いイスラム教徒からの支持を得るため、ジョコ大統領はアミン氏を副大統領候補に指名した。同氏は、イスラム聖職者組織「インドネシア・ウラマー評議会」の議長を務め、また世界最大のイスラム教組織「ナフダトゥル・ウラマー」の最高指導者でもある。

 しかし、アミン氏(76)がロビー活動を行い、宗教的少数派やLGBTコミュニティーに対して不寛容な宗教的見解を示していることについて批判が寄せられている。政府官僚によるLGBTの人々への言辞がますます憎悪を帯びていることがイスラム教令(ファトワ)によって正当化されており、場合によってはイスラム過激派による宗教的少数派への凄惨な暴力を助長することにもなると、人権NGO団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は指摘する。

 欠陥の多いインフラを改善し、貧困を削減してきたジョコ大統領の取り組みは広く称賛されてきた。慢性的な渋滞を抱えるジャカルタに、2019年3月、初めて地下鉄が開業した。歴代の政権下で何年もの遅れが生じていた計画であり、日本からの資金提供を受けている。

 しかしながら、世界的不況や深刻な貿易摩擦問題、輸出の減少、資金調達を阻むあらゆる問題を考慮すると、政策を実行することはジョコ政権後半の数年間で最大の難題となる。

 2019年7月に行われたAP通信とのインタビューにおいてジョコ大統領は、企業に寄り沿った労働法を制定するなど、包括的に、かつ不評を買う可能性のある経済改革を推し進めるつもりであり、2期目は政治的駆け引きによる制約を負うことはないだろうと語っている。

「以前は実現が不可能だったことを、今後5年間で多く成し遂げたい」と話す。

By NINIEK KARMINI and JIM GOMEZ Associated Press
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP