「国民に月1000ドル支給」米大統領選に挑む異色の候補、アンドリュー・ヤン

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◆UBIで社会を守る 財源は大手テック企業から
 避けられない大きな変化に対応するため、ヤン氏は自分が大統領となれば、18歳から64歳のすべてのアメリカ人に、「自由の分配(Freedom Dividend)」と名付けた月1000ドルのUBIを支給すると約束する。財源は、10%の付加価値税(VAT)を導入することで確保する。これによりグーグルやアマゾンといった企業が収入を海外に流すことを防ぎ、オートメーション化でもたらされた利益はしっかりアメリカ国民に還元してもらうと主張している(ウェブ誌『Vox』)。

 ヤン氏は、UBIの効果をアラスカ州の恒久基金を例に説明する。同州では、石油収入の余剰金を使って、1982年から毎年1人当たり1100ドル程度の分配金が住民に配られている。実質的なUBIだ。これは貧困対策に役立っており、配当が原因で就業率が低下することもないという(Vox)。「自由の分配」が実現すれば、給付金は消費に回り、経済を活性化させ、雇用も増えるとヤン氏は説明している。

◆トランプ氏から鞍替え? 予期せぬ支持者に困惑
 これまでほとんど知られることのなかったヤン氏だが、UBIを選挙運動の中心に据えたことで急激に注目度が増している。世論調査での支持率は0~1%だが、予測市場ではほかの候補者を飛び越え、オッズが上昇しているという。また、人気司会者のポッドキャストやテレビ番組に出演したことがきっかけで支持者も増加。6、7月に開かれる民主党の候補者討論会に参加するために必要な6万5000人以上からの寄付を集めるという条件もすでにクリアした。その主張が全米の有権者に届けられれば、より人気は高まりそうだ。

 さらに興味深いのは、ヤン氏が予期せぬ有権者層から支持されていることだ。Voxによれば、伝統的な左派のプラットフォームに若者、保守派までが混ざっており、とくにYang Gangと呼ばれる若者の支持者によるさまざまなミームがネットを賑わせている。彼らは4chan、Redditなどの住人とされ、かつてはトランプ氏のMAGA(Make America Great Again)キャップを被っていた層だが、月1000ドルに魅かれてヤン氏支持に回っているようだ。ヤン氏のコメントを白人寄りと勝手に解釈した一部の白人至上主義者からも支持されているが、同氏は明確に人種差別や偏見を持つ人々からの支持を拒絶している。

 政治ブログ『FiveThirtyEight』は、ヤン氏が民主党内でアウトサイダー的な候補者であること、政治経験がなくニッチな層からの支持を得ていることなどから、今後の戦いは厳しいだろうと指摘する。しかし、たとえ選挙で負けるとしても、UBIを初めて民主党のメインストリームにまで引っ張り上げる可能性もあるとし、異色の候補者の登場に注目している。

Text by 山川 真智子