フランス暴動デモ、マクロン大統領の失敗とは? 温暖化対策と格差をめぐる問題

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◆弱者軽視、トップダウンがあだに
 もっともマクロン氏の失敗は、炭素税という政策自体にあるのではなく、最も貧しい人を直撃してしまったことだったとポリティコは指摘。グリーン政策は、不平等と社会正義というより大きな問題から切り離すことはできないとしている。

 シンクタンクの「国際持続可能開発研究所(International Institute for Sustainable Development)」のイヴェッタ・ゲラシムチュク氏とヨアキム・ロス氏は、もともと燃料税引き上げ発表前から、マクロン政権下では富裕層の減税、国有鉄道の自由化、労働規則の改正など、多くの国民が不満を持つ政策が取られており、燃料税で沸点に達したと見ている。また、燃料税はディーゼル車の使用をやめさせ、再生可能エネルギーへの資金を集めるためのものだったが、抗議運動をする国民には、それによる恩恵が伝わらなかったとも述べている(USニューズ&ワールド・レポート)。

 ガレット氏は、マクロン氏はトップダウン的アプローチを取り、エコノミストやビジネス界の意見に耳を傾け、もっとも負の影響を受けると考えられる国民の意見を聞かなかったと断じる。燃料税増税は、低所得者や地方の住民の生活を直撃するものだ。他の抗議運動と異なり、黄色いベスト運動が政治的イデオロギー、都市と地方の違いを乗り越えて全国的に広がった理由はそこにあるとしている。

◆必要なのは対話 マクロン氏、汚名返上なるか?
 抗議運動が次第に暴力的になったことを受け、マクロン氏は燃料税増税を延期した。フィリップ首相はガスや電気にかかる税の引き上げを凍結するとし、国民生活への影響を抑え、いかにしてグリーン政策を進めていくかについて、全国で国民との話し合いを行うと約束した。

 ゲラシムチュク氏とロス氏は、エネルギー転換とは人に関わる問題だとして、対話が進み、グリーン政策が弱者への恩恵に繋がるということが理解されなければ、改革の成功はないと述べる。ガレット氏は、ドイツのメルケル首相が降板となれば、マクロン氏がグローバル化と気候変動で力を持つ最後のリーダーになるとし、本気で戦うつもりなら、より草の根的プロセスを取り入れ、真剣に国民と話し合い、協力を求めるべきだとしている。

 パリにはマクロン氏は「金持ちのための大統領」と揶揄する落書きもあるということだ。気候変動で世界をリードするためには、まず自国民からの信頼を勝ち得てもらいたい。

Text by 山川 真智子