爆発物事件はメディアのせい? トランプ氏の「敵意やめよ」に、メディア一斉反撃

Manuel Balce Ceneta / AP Photo

◆対立を煽る張本人 トランプ氏こそ暴力的
 ロサンゼルス・タイムズ紙は、「トランプ氏は政治的暴力を心配するなら、自分の言動に気を付けよ」と見出しを付けた社説を掲載した。同紙は、敵対的、挑発的で醜い政治スピーチは、扇動の法的定義には当てはまらないが、それでは現状を正すことはできないと断じる。醜い言葉に煽られて誰かが暴力に走る可能性は常にあり、大統領はそのことを認識するべきだと訴えた。

 ニューヨーク・タイムズ紙は、爆弾が送り付けられたソロス氏の息子、アレキサンダー・ソロス氏の寄稿文を掲載した。同氏は、トランプ氏が大統領になった後、自分の気持ちを話せば個人的敵意やSNS上の批判、殺害の脅迫などの対象になることがあまりにも当たり前になってしまったとする。民主主義のために活動する団体が、ソロス氏の財団から寄付を受ければ脅迫され、市民を守るために宣誓した政治家が、政治的分断と憎悪を求めることまで普通になってしまったと述べている。

 アメリカはもう政敵を悪とみなすことをやめて新しい道を目指すべきだと訴えるソロス氏。憎悪こそが人々をむしばむとし、次の選挙では、民主主義の弱体化に責任のある政治家に投票しないようにと呼びかけている。

◆欧州メディアもあきれ顔 アメリカの分断は深刻
 欧州メディアもトランプ氏の影響を憂う。ドイツのドイチェ・ヴェレは、より毒を持ち盲目的になるアメリカの政治が、少なくともこのような事件の土壌を作ってしまったとする。そして前代未聞の劣化した政治風土の裏で中心となったのが、他でもないトランプ氏だとしている。大統領選では、ライバルとメディアを攻撃し、共和党を自身の政治的戦闘マシーンに変えてしまい、その結果既存の対立をさらに悪化させた。このような大統領の手法や行いが、政敵への暴力行使の呼びかけだと捉える人がいても、誰も驚かないと述べている。

 イギリスのガーディアン紙は、トランプ氏は常にメディアを「国民の敵」と呼んできたと述べ、同紙の記者が共和党議員から暴力を受けたときも、トランプ氏は褒め称えたとしている。トランプ氏の発言や手法に人々は慣れてきたうえに、それを真似る者さえいるとし、キング牧師とケネディ元大統領の死から50年目の今年、アメリカはまたも分断されていると述べ、記事を締めくくった。

Text by 山川 真智子