「政権幹部がトランプの悪政を阻止」匿名の高官が暴露 大統領激怒、大騒動に

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 5日のニューヨーク・タイムズ紙(NYT)に、トランプ大統領を批判する匿名の論説が掲載された。著者は自らを政権内の「レジスタンス」の一員と呼んでおり、トランプ政権の高官だと見られている。これを読んだトランプ大統領は、著者の名前を公開するようNYTに求めた。問題から距離を置こうと政権幹部は次々と関与否定のコメントを発表。メディアも犯人探しを始めるなど、大騒動になっている。

◆異例の匿名論説 大統領を斬る
 論説のなかで著者は、「トランプ政権内の多くの高官は、大統領が示す政治的検討課題の一部や最悪の考えをくじくため、真面目に務めを果たしている」と述べ、そう言えるのは「自分がそのなかの1人だからだ」としている。

 彼らは政権の目標を支持しているが、大統領は直情的で常軌を逸し、道徳観念がなく、その間違った衝動は国益のため制御されなければならないと考えており、こんなひどい大統領のもとでも、成功を収めてきたと述べる。さらに自分たちは何が起きているのかよくわかっており、大統領ができなくても、正しいことをしようとしていると主張。「こんなカオスの時代に慰めにもならないかもしれないが、ホワイトハウスには大人がいることを知っていてほしい」と、国民に呼びかけている。

◆トランプ氏激怒 関係者は疑惑の払しょくに大忙し
 実は、トランプ氏の大統領としての適性を問う暴露本が、ワシントンポスト紙の政治ジャーナリスト、ボブ・ウッドワード氏によって出版されることが明らかになっており、政権はすでに守りに入っているとBBCは述べる。ホワイトハウスのサラ・ハッカビー・サンダース報道官は、論説の著者はアメリカ国民の意思よりも自分のエゴを優先させているとし、辞任すべきだと述べている。

 トランプ氏は、ツイッターで「反逆」だと述べた。さらにこの「政府高官」が本当に存在するのか、それとも落ちぶれたNYTのいつもの偽情報なのかと問い、この匿名の意気地なしが存在するなら、NYTは安全保障上の理由から、すぐにそいつを政府に引き渡せ、と怒りのツイートを発信した。

 政権内の要人たちも次々と著者は自分ではないとするコメントを出している。政治メディア、ザ・ヒルによれば、最初はペンス副大統領がその独特な言葉のチョイスから、著者ではないかと疑われていたという。しかし、ペンス氏を筆頭に、ポンペオ国務長官、マティス国防長官、ムニューシン財務長官など、すでに20人以上に及ぶ政府関係者が関与を否定している。

◆論説は逆効果? 上がる懸念の声
 トランプ氏の手腕や人間性を評価しない人々は多いため、今回の匿名論説への支持は高いかと思いきや、実は共和党内からは冷めた意見が聞かれる。

 ホワイトハウスの事情を良く知るある共和党員は、論説のおかげで、これまでうまくトランプ氏を操ろうとしてきた周囲の努力が水の泡だと述べる。トランプ氏をいら立たせてしまっただけで、今後その意見に疑問を付けようものなら、「お前が書いたんだろう」と言われるのが落ちだと述べている。共和党の上院議員、ジョン・テューネ氏も、今回の件が、「ワシントンには自分を失脚させようとする人々がいる」というトランプ氏の考えを増強することになったと見ており、果たして論説の裏にいる人々が期待する結果となるかどうかは定かではないとしている(政治メディアポリティコ)。

 一方ボルチモア・サン紙は、論説が正しければ、アメリカでは状況を全く把握していない不適任な人物がリーダーになっている、または選挙で選ばれてもいないアドバイザーたちが集団で大統領の裏で物事を決定していることになるとし、どちらのパターンも到底受け入れられるものではないとしている。論説の筆者は、自分たちがいるから安心しろと言うが、慰めになるはずもなく、むしろ民主主義が崩れていくことに危機感を感じると述べている。

Text by 山川 真智子