ドイツで徴兵制復活議論に火 極右政党の台頭と人手不足 世論は賛成
◆社会の団結に必要? 兵士不足も深刻
クランプ=カレンバウアー氏の発言により、徴兵制復活への議論が活発になっている。賛成派は、国のために役務に就くことは正しいと主張する。その性質が軍事的であろうが民間的であろうが、徴兵制は社会の繋がりを深め、気ままな若者たちを教育し、プライドやコミュニティ意識などを育てると彼らは考えるからだ。さらに今後は男女ともに制度を適応すべきという意見もあるという(ドイツ商業経済紙ハンデルス・ブラット)。
ドイツでは徴兵制停止後、軍人のリクルートに苦戦している。人員不足を補うため、EU諸国から軍人を募集することも国防省で議論されていた(テレグラフ紙)。軍隊だけでなく医療や介護の現場でも人手が不足しており、徴兵制復活でこういった穴を埋めることが期待できるとハンデルス・ブラット紙は述べている。
一方、徴兵制は不要だと訴える反対派は、毎年70万人の若者が対象となり莫大なコストがかかるため、そのしわ寄せが他の分野での予算削減につながるという意見だ(テレグラフ紙)。ハンデルス・ブラット紙は、奴隷労働にも似ていると述べ、若者のキャリアを傷つけることにもなりかねないとする。さらに強制的ということが、そもそも違憲ではないかという指摘も紹介している。
◆狙いは党のサバイバル? 与党の舵もしぶしぶ右へ
テレグラフ紙によれば、クランプ=カレンバウアー氏は、全国で行なったCDUの党員との対話集会で、最も話題になったのが徴兵制だったと述べている。DWも、明らかに社会の繋がりの喪失を恐れる保守的な党の支持者に、この話題は響いたとしている。
ドイツで5月初めから8月初めにかけて行われた世論調査では、55.6%が徴兵制復活に賛成で、反対は39.6%だったという。さらに最近のネット調査で、極右政党「AfD(ドイツのための選択肢)」の支持者の60.6%が強く賛成しているという結果が出た。AfDは、徴兵制停止は「致命的誤り」としており、復活を切望している(DW)。
AfDは、昨年9月の国政選挙で数百万票をCDUから奪ったとされ、今では常に支持率16%を取るまでになっている。これにより、保守のCDUは移民や安全保障問題で右寄りの姿勢を取らざるを得なくなっているとハンデルス・ブラット紙は解説する。アナリストのなかには、CDUがAfDから保守票を奪うため、徴兵制復活を持ち出したのではという憶測もあり、極右の台頭は、政権与党をさらに厳しい状況に追い込んでいるようだ。
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