オバマ氏推薦の「候補81人」に民主社会主義者がいない理由 米中間選挙

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 2016年1月、ドナルド・トランプ大統領就任に伴い、8年間の大統領職を無事終えてホワイトハウスを去ったバラク・オバマ前大統領。その後、長い間政治的沈黙を保っていたオバマ氏だったが、ついに8月1日、3ヶ月後に迫った中間選挙の民主党候補応援に本格的に乗り出した。ツイッターにオバマ氏が推薦する民主党候補第一陣として、81人の名前を挙げたのである。

 その顔ぶれを見てみると、圧倒的に米下院選挙に立候補した民主党員が多い。それもそのはず、11月の中間選挙では上院100議席中34議席のみ任期満了による投票が行われるが、下院では全435議席の命運がかかっているうえ、今期限りで議員職を辞職、または引退する共和党下院議員が非常に多く、民主党が下院の過半数を取り戻す可能性が強いといわれているからだ。

◆オバマ氏の推薦は新規立候補者のみ
 今回オバマ前大統領により推薦されたのは81人のみだが、同氏はこの推薦を「最初の波」であると述べているため、今後第2、第3の推薦が続くことになると思われる。また、政治専門紙ザ・ヒル(電子版)の8月1日付記事によると、オバマ氏の広報担当は同氏の目的が新規の立候補者を推すことであるため、推薦には再選を狙う現職議員は含まれていないという。

 オバマ氏の推薦リストにはカリフォルニア州知事に立候補しているギャビン・ニューサム同州現副知事や、同州の現職で親トランプ派下院議員のダナ・ローラバッカー氏(共和党)に立ち向かうハーリー・ルーダ氏、ネバダ州で現職ディーン・へラー議員(共和党)から議席奪取を狙うジャッキー・ローゼン氏、そしてオハイオ州知事選で現職のジョン・ケーシック知事(共和党)の後任として「スイング・ステート(選挙激戦州)」の知事選に挑むリチャード・コードレイ氏などの名前が連なっている。

◆オバマ氏が民主社会主義者を推薦しない理由は
 さて、リストのニューヨーク州の欄を見ると、そこには同州議会に立候補している民主党員アンナ・キャプラン氏と、同州19選挙区から下院に立候補しているアントニオ・デルガド氏の名前があるが、明らかに抜けている民主党員が1人いることに気づく。ニューヨーク州ニューヨーク市クイーンズ区で民主党下院予備選にまったくの政治素人として立候補し、現職のジョー・クロウリー議員を破るという大波乱を起こしたアレキサンドリア・オカシオ・コルテス氏(28)だ。

 オカシオ・コルテス氏はバーニー・サンダース上院議員派の民主社会主義者である。民主党内でも半ば異端扱いされている民主社会主義者は、オバマ氏を代表する同党中道派に警戒されているふしがある。トランプ大統領や右派のニュースキャスターが民主社会主義者の台頭やその存在を大げさにアピールすることで、民主党に寝返りかねない共和党中道派に危機感を抱かせようと狙っているせいもあるだろう。

 政治サイト『Politico』の8月8日付記事によると、バーニー・サンダース議員が今期推薦した立候補者はネブラスカ、モンタナ、バージニア、アイオワ、ニュージャージーの各州で惨敗を喫しており、今「民主主義の流れが変わっている」とは言い難い。共和党から上下院の過半数を奪回するためには、民主党中道派が前面に出ることが必要なのである。

 オバマ氏による民主社会主義者の推薦は、民主党中道派が民主社会主義者に歩み寄ったシンボルとして共和党にネガティブな形で利用される可能性が高いため、今後もオバマ氏がオカシオ・コルテス氏を推薦することはないと予想される。

Text by 川島 実佳