缶詰スープが北朝鮮空軍の資金源に 制裁で北経済に起きた変化

Eric Talmadge / AP Photo

 北朝鮮空軍が、同軍の所有する滑走路及び仮設滑走路を改修するため缶詰スープの販売やタクシー業務を展開しているという話は本当なのだろうか?

 北朝鮮と同国の核兵器開発プログラムに対し、かつてない厳しさの制裁が課される中、この話を真実だと信じざるを得ない理由がいくつかある。北朝鮮空軍がどのようにして、そしてなぜ小売業やタクシー業務を展開しているのか考察していくことにより、北朝鮮の経済が金正恩総書記の指揮下でどのように機能しているのかを垣間見ることができる。

 北朝鮮の軍部と民間セクターの境界線は曖昧だ。北朝鮮はすでに限られた国家資源の大半を防衛に割り当てているが、北朝鮮軍部はその資源をさらに増やす目的で、最重要航空会社のためにレストランから農場までありとあらゆるものを統制している。

                                                                                                                 

 高麗航空はもはやただの航空会社ではない。

 高麗航空はここ数年間のうちに、北朝鮮で最も認知度の高い消費者ブランドとしての存在も確立した。

 高麗航空で実際に機能している航空機は十数機程度しかなく、運航ルートは中国と極東ロシアに限られている。このような状況にある高麗航空が、従来通りのチケット販売などを通し、北朝鮮に多額の資金をもたらす一大航空会社になったとは到底思えない。しかし高麗航空は国の威厳の象徴とされ、外の世界へと通じる重要なライフラインとして、市民や貨物、そして貴重品の数々を(ほとんどの場合はあまり厳重に検査せずに)運んできた。

 高麗航空は、平壌市内に少なくとも1軒のガソリンスタンド兼洗車場を経営し、自社のタクシーを所有している。また空港内の洋服店など小売店も数店運営する。平壌中心部にある比較的上流階級向けの普通江(ポトンガン)百貨店では、高麗航空ブランドの製品が見渡す限り並んでいる。蒸留酒も、ずらりと並んだコーラ風の炭酸飲料も、キジ肉のスープや桃など数種の缶詰製品も、すべて高麗航空ブランドだ。

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高麗航空が運営するガソリンスタンドのクーポン(Eric Talmadge / AP Photo)

 高麗航空のこのような動きは、北朝鮮経済全般の転換を反映したものだ。北朝鮮経済は現在も社会主義が続き、厳密には中央政府が統制しているが、金正恩体制の下では急速な転換期を迎え、資本主義的な起業家精神が芽生えている。

 草の根レベルでは、露店商や小規模な屋台が普及している。さらに大きなところを見てみると、国営企業が生産性、収益性の高い企業となるべく改良を重ねているところだ。制裁と貿易機会の縮小で困窮している政権では、もはや経済を支える余裕がないためこのような転換期を迎えたという可能性が極めて高い。

 変化を遂げているのは高麗航空だけではない。金正恩氏自らが愛煙していると言う高級銘柄「7.27」などを製造している大手煙草メーカー、ネゴヒャン(Naegohyang)は、スポーツグッズの製造を開始した。ネゴヒャン製のスポーツグッズは、平壌の外交地区や、北朝鮮の科学者及び技術者に対する報酬として建設された特別地区、未来科学者通り地区付近の店舗で販売されている。

 金氏が平壌国際空港の全面改修を決定したことにより、高麗航空は大きな後押しを受けることとなった。平壌国際空港は2015年にピカピカの新ターミナルとしてオープンを迎えた。高麗航空はその翌年にタクシー業務を開始。2016年には高麗航空ブランドのソフトドリンク製造ラインを立ち上げ、続けて2017年にはガソリンスタンド兼洗車場の運営を開始した。

 これらのイニシアチブがどの程度の収益に繋がったかは不明である。しかし製品の品揃えが増えていること、そして首都を始めとする北朝鮮各地で手軽に入手できるようになっていることは否定できない。

 最近、子会社である朝鮮漢江貿易会社が見本市に姿を現したことから、高麗航空が輸出ビジネスを検討していることが示唆される。しかし、これは現在の政治情勢と、北朝鮮の核兵器開発プログラムへの資金源断絶に向けた制裁が行われていることを踏まえるとどこか無理があるだろう。

 ジョンズ・ホプキンズ大学米韓研究所の研究員で、ブログ『North Korean Economy Watch』の編集者を務めるカーティス・メルヴィン氏は、高麗航空を北朝鮮空軍の「完全所有子会社」と説明した上で、空軍は滑走路の修復や地方幹線道路沿いの飛行場における防護壁の新設など、空軍が所有するインフラ再建費用の一部を、高麗航空の消費財ビジネスを利用して調達しようとしていると言う。

 メルヴィン氏によると、高麗航空ブランドの製品を軍の工場で製造し、販売すれば、空軍は国から割り当てられた予算以外にも、収益を増やすことができる。

 高麗航空の新本社が国際空港の近くに建設されたことをメルヴィン氏は指摘する。

 メルヴィン氏は、「北朝鮮は何年にも渡り、国の補助金に依存する国有企業の運営を変え、「税金」を納められるだけの収益をあげられる企業に変えようと試みてきた」とメールで回答した。「おそらく高麗航空は、その時を迎えたというだけのことだろう」

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北京行きの高麗航空の飛行機に乗る旅客たち(Wong Maye-E / AP Photo)

 高麗航空と軍の繋がりは一目わかるものではなく、見逃してしまいがちだ。

 しかし国連専門家パネルが2014年に発表した報告書によると、高麗航空と北朝鮮におけるすべての空港及び飛行場は、朝鮮人民軍空軍が航空局を通して統制している。同報告書にはまた、航空会社の従業員は空軍の一員であるという自覚を持っており、「国内のメンテナンス業務はすべて空軍の技術スタッフが実施する」と記されている。

 そのため高麗航空が当然のように制裁の標的となり、多様化の発端ともなっているのである。

 アメリカ政府は高麗航空をブラックリストに載せるという取り組みを支援したものの、完全に失敗に終わった。しかし2016年、アメリカ合衆国財務省は高麗航空に対し、2013年に行われた軍事パレードにおける上空飛行を実施したこと、そして特にスカッドB型ミサイルシステム用スペア部品を輸送したことを理由に制裁を執行した。

 米国人が高麗航空で渡航することを禁止するという制裁措置はないが、高麗航空とその他のビジネスを行うことは制限している。

 国連はというと、「加盟国が金融取引を始めとし、技術研修などいかなる形であろうと高麗航空に関与していた場合、空軍が高麗航空の航空機を統制し、使用していることを考慮すれば、北朝鮮に対する武器の輸出禁止に違反する可能性がある」と警告を発した。

By ERIC TALMADGE, Associated Press
Translated by t.sato via Conyac

Text by AP

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