雨漏り、アスベスト……英国議会が移転へ ウェストミンスター宮殿改修

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 ウェストミンスター宮殿は、イギリスの議会が議事堂として使用する歴史ある建物だ。しかしその美しい外観とは対照的に、激しく老朽化が進んでおり、改修工事の必要性が指摘されてきた。ついに議会の引越し、建物の修復が下院で承認されたが、移転場所や莫大な費用をめぐってさまざまな意見が出ている。

◆国民のシンボル。だが機能的には問題だらけ
 現在のウェストミンスター宮殿は、1834年の大火災後に再建されたものだが、一部は11世紀にさかのぼり歴史ある建造物だ。国家的象徴とも言え、ユネスコの世界遺産にも登録されており、年間100万人以上の観光客が訪れるという。

 ところが、建物の老朽化は想像を絶するほど進んでいる。報じられているところによると、屋根は雨漏りがし、壁からはレンガのかけらが崩落しているという。配管システムが不十分で、トイレは常に水漏れ、むき出しの電気配線は絡まったままで、黒いほこりが積もった状態だ。19世紀に再建された部分はアスベストだらけだという。

 老朽化でもっとも心配されるのは火災の危険性で、改修工事が求められる最大の理由だ。保守党のアンドレア・レッドサム議員は、深刻な火災につながる出来事が、近年で60回も起きていると述べている(BBC)。労働党のクリス・ブライアント議員によれば、建物内には適切なスプリンクラーシステムがなく、警備員が24時間体制で火事を探して回っている状態だという。古いケーブルとアスベストに覆われた建物で火災が起きれば消火作業は難航し、火は瞬く間に広がってしまうとも指摘(デイリー・メール紙)。

◆莫大な工費。費用はどんどん膨らむ恐れも
 工事費用は少なくとも40億ポンド(約6240億円)と見積もられている(デイリー・メール紙)。イギリス政府は公共サービスなどを削る緊縮財政を行っているだけに、国会議員のための建物に莫大な予算を使うことに対し否定的な意見があるとされる。

 議員の中には次の世代に残すためにも速やかな改修を求める声もあるが、BBCによると、最終的には総額で100億ポンド(約1兆5600億円)以上かかるのではと、工費の見積もりに懐疑的な意見もある。すでにイギリスでは時計塔ビッグ・ベンの改修工事が行われているが、かなりの予算超過に陥っているという(CNN)。

◆工事開始は4年後?深刻な事態でも意外にのんびり
 工事中の移転先についても、さまざまな意見がある。両院の特別合同委員会が作成した2016年のレポートは、近隣の政府の建物や会議場などに移ることを勧めているが、テムズ川に筏船を浮かべて仮の議事堂を作るという奇抜な提案もあった。これは波の上下が激しくナンセンスという理由で却下された。

 その他、場所を定めず、国中を回って地方の市や町で議会を行う「ビッグ・ツアー」スタイルや、ウェストミンスター宮殿を離れ、恒久的に議事堂自体を新しい場所に移してしまうという案も出ているという。

 もっとも、本工事は少なくとも2022年まで開始されないと報じられている。CNNによれば、普段から修理工事のためいたるところで足場が組まれており、それだけでも数千万ポンドの費用がかかっているという。納税者のことを思えば早急なプロジェクトの開始が望ましいが、危機感のわりにはスピード感は今一つのようだ。

Text by 山川 真智子