安倍首相と所構わず北ミサイル会議 トランプ大統領の型破りエピソード集

Andrew Harnik / AP Photo

 ドナルド・トランプ大統領は、型破りな大統領だ。就任から一年、トランプ氏は幾度となく自らそれを証明してきた。AP通信の記者が報じてきた波乱の一年を、印象的な出来事とともに振り返ってみる:

◆私のボタンを見ないか?
 2017年4月23日、トランプ大統領はインタビューの最中、手を伸ばして大統領執務室の机上にある赤いボタンを押した。

 かといって核ミサイルが発射されたわけでもなく、顧問が部屋に駆けつけたわけでもない。やってきたのは、ダイエットコーラの入ったグラスを銀のトレイに乗せたホワイトハウスの執事だ。

 まだ比較的、就任して間もないころのトランプ大統領は、新たな住処の装備を楽しんでいるようだった。中国との取引について答えている途中で、トランプ氏はおもむろに「コーラか何か飲むか?」と聞いてきた。

 その数カ月後、トランプ氏は北朝鮮に向けた挑発ツイートで別の「ボタン」についてつぶやくことになる。「私のボタンはきちんと作動する!」と宣言するのだ。

 現実には、大統領が核兵器を発射できるような核ボタンなど存在しない。ただ、ダイエットコーラのボタンなら確かに作動する。

―ジュリー・ペース著

◆立入禁止区域
 夜明け前、窓のないソウルのホテルの一室で、ホワイトハウスのサラ・ハッカビー・サンダース報道官はかん口令を敷かれた記者団を集め、次の目的地を伝えた。

 サンダース報道官は、これが指示された機密情報の伝達手段だといいながら、一枚の紙を掲げた。そこには「DMZ(非武装地帯)」と書かれていた。

 元来がエンターテイナーのトランプ氏は11月7日、重武装された北朝鮮と韓国との非武装地帯を電撃訪問することで、北朝鮮との言葉の応酬を終わらせたいと考えていた。

 しかし、それはかなわなかった。

 国境まであとわずか5分、というところまできて、トランプ氏を乗せたヘリコプターの一団は濃霧により引き返さざるを得なかった。1時間ほど待機してからトランプ氏は再度挑戦するよう求めたが、軍のパイロットとシークレットサービスがこれを危険だと判断し、再挑戦を断念した。

 トランプ氏は怒り、補佐官に対して、飛行が失敗したことによって自分が弱く見えてしまうのではないか、と話した。

 パールと貸与された軍服を身に着けたサンダース報道官はのちに「大統領は非常に失望している」と記者団に語った。

―ジョナサン・レミア著

◆握手と笑顔、そして我慢
「どうぞ、握手を」とドイツのメディアのメンバーが促した。3月にドイツのアンゲラ・メルケル首相とトランプ大統領との初会談が大統領執務室で開かれた。これはその冒頭での出来事だ。

 写真撮影の間、2人の指導者は一度も握手を交わさなかった。なんとも気まずい会談だった。この件だけではない。新大統領は就任して最初の1年間、世界各国の指導者と何度も奇妙なやり取りを繰り広げてきた。

 フランスのエマニュエル・マクロン大統領との会談でも、長すぎる握手とにらむような視線で周囲をハラハラさせていた。また、フィリピンでASEAN会議が開かれた際、各国首脳が握手の鎖を作る場面では、トランプ氏だけがうまく握手をつなげられず、鎖が途切れてしまっていた。NATO首脳会議でモンテネグロの首相を押しのけた姿はインターネット上で拡散した。

 トランプ氏のハイライト映画は、まだ終わらない。イギリスのテレザ・メイ首相とは素っ気なく握手をし、日本の安倍晋三首相とは19秒間も握手をし続け、ハグを交わした。インドのナレンドラ・モディ首相とは何度も固く抱き合った。

 全体的に、世界の首脳が相対した際には「握手と笑顔」という伝統が、一連の対談を通じて端から覆されたのだ。

―ケン・トーマス著

◆アイスクリームを2スクープ
 トランプ氏は手を振り、記者3名を自身のプライベートダイニングへ招いた。

 大統領執務室に近いダイニングには、新たに60インチのテレビが設置され、大統領が個人的に選んだシャンデリアがぶら下がっていた。トランプ氏は、「この部屋の個性を取り戻した」と自慢した。

 報道資料や定期刊行物の記者に囲まれたトランプ氏は、リモコンをつかんで前日行われたサリー・イェイツ司法長官とジェームス・クラッパー前国家情報長官が議会で証言する場面を映像で流した。

「彼らが犬のように言葉に詰まるのを見てくれ」と大統領はいい、これから我々が繰り返し見せられる映像の内容を、すでに熟知していた。

 そこは大統領の大量のメディア消費を目の当たりにする最前列の席で、トランプ氏の消費習慣が垣間見える場所だった。ティーボ(TiVo)に録画されたフォックス・ニュースの番組、その後、ディナーでアイスクリームを2スクープ分たいらげた。

 夕食に同席したほかの者たちに出されたアイスクリームは、どれも1スクープだった。

―ゼーク・ミラー著

◆マー・ア・ラゴ外交
 2月のある週末、トランプ大統領は日本の安倍晋三首相をフロリダ州パームビーチにある別荘、マー・ア・ラゴクラブに招待し、ゴルフと親睦会を楽しんだ。トランプ氏と行動を共にする代表記者は至急招集された。

 記者らは芝生の上のウェディングアーチの先にある豪華な舞踏室に案内された。ほどなくして2人の指導者が、トランプ大統領就任以来初となる北朝鮮の弾道ミサイル発射実験について、簡潔な声明を発表した。彼らの話声の向こうから結婚式のパーティー音楽が聞こえたかもしれない。

 それは、外国の挑発に対してトランプ大統領が、これまでと大きく異なるアプローチをとることが早々に示された瞬間だった。

 後になってわかることだが、その日の夕方、トランプ氏と安倍氏はクラブのテラスに腰かけ、クラブ有料会員やそのゲストといったギャラリーの面前で、ミサイル実験への対応を検討していた。その後、ショーン・スパイサー報道官は、機密情報に関する議論はなかったと主張した。

 その間、クラブの会員たちはその様子をカメラに収めていた。あるゲストは、軍関係者が核のフットボール(核攻撃命令用の道具)を運ぶ現場を撮影していた。

―ジル・コルビン著

◆偉大、それとも最も偉大?
 女優サリー・フィールドの名言、「みんな私のことが好き、本当に好きなのね」の大統領版だった。

 6月、トランプ大統領就任後初の本格的な閣僚会議で、政府のトップ閣僚たちが閣僚室の長机に集合し、記者らが開会の写真撮影を申し入れた。

 通常ジャーナリストが会場に入っても、あいさつ程度ですぐに退室するものだ。

 ところが今回はそうではなかった。大統領は発足したばかりの政権に賛辞を贈り、続いてほかの参加者にも発言するよう求めた。

 次々に閣僚が政策に触れつつ発言をしたが、それよりも重点が置かれたものがある。それは、大統領のエゴだ。皆、挨拶状によく使われるような輝かしい言葉でトランプ氏をほめたたえたのだ。

 マイク・ペンス副大統領は自分の仕事を「私の人生最大の特権」と称した。

 元大統領首席補佐官のレインス・プリーブス氏は、トランプ氏に対して「あなたの計画に奉仕するために、機会と恵みを与えてくれたこと」に感謝した。

 この翌月、プリーブス氏は更迭される。それでも、この会議はトランプ氏の就任1年目の奇妙な瞬間の1つとして、今も生き続けている。

―キャサリン・ルーシー著

◆コミー長官の辞任
 5月9日遅く、ホワイトハウスの記者たちは、記者発表が開かれるのを待っていた。内容はまだ明かされていない。

 やっとその時が来た。秘書のスパイサー氏からパラグラフ3つ分の発表があった。すぐに目を通した私は、同僚に向かって思わず声を漏らした。「なんてことだ、彼はジム・コミー氏を解雇した」。

 トランプ氏がFBI長官を解雇したことで、ワシントンは混乱した。大統領選挙期間中にトランプ氏のキャンペーンとロシア政府当局との間で癒着疑惑が持ち上がった問題で、捜査監督者の立場にいたのがコミー氏だった。トランプ氏は自身が捜査されていることに激怒し、コミ―氏を解任した。

 彼はコミー長官に解任通知を手届けるよう、長年のボディーガードであり親友のケイス・スキラー氏に指示した。しかし、コミー長官の居場所を誰も確認していなかった。長官はロサンゼルスにおり、FBI現地事務所の職員への訓示中に、テレビニュースで自身が解雇されたことを知ったのだ。

 ホワイトハウスでは、スパイサー氏が、この驚くべき決定を説明するのに苦心していた。

 メディアのインタビューの合間、報道官は生垣の隙間で待ちつつ、考えをまとめていた。

―ダーリーン・スーパービル著

By The Associated Press, Washington (AP)
Translated by isshi via Conyac

Text by AP