「ネット中立性を取り戻す」民主党が望み薄でも共和党と戦う理由とは?

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 昨年12月、アメリカの通信事業を監督する連邦通信委員会が「ネット中立性」に関する規制の撤廃を発表した。この撤廃に対し2018年になるとすぐに、民主党主導による撤回を求める動きが活発化した。この一見するとインターネット業界における規制の是非をめぐる争いは、アメリカを二分する問題に発展しつつある。

◆上院では伯仲
 ネット中立性に関する規制とは、前オバマ政権時に確立されたインターネット接続の公平性を保証する規制のことである。この規制は、インターネット・プロバイダーが特定のコンテンツへのアクセスをブロックしたり、反対に追加料金を払うことによって優先的に回線を使えるようにするサービスを禁じていた。

 政権が交代すると、共和党支持者が多数を占める連邦通信委員会はこの規制の撤廃を発表した。規制が撤廃されることによって、プロバイダーはより自由にサービスを提供できるようになる。しかし、プロバイダーを介してサービスを提供するインターネット企業にとっては、都合が悪いことが生じる。グーグルやアマゾンのような資本力のある企業であれば、追加料金を払って自社に有利な接続契約を結ぶのは容易い。一方、十分な資本力のないスタートアップ企業は市場参入が難しくなる。それゆえ、ネット中立性に関する規制の撤廃は、インターネット業界の成長を妨げてしまう恐れがあるのだ。

 こうした懸念を受け、ロイターが伝えるところによると、カリフォルニア州とニューヨーク州を含む21州の司法長官が1月16日、ネット中立性に関する連邦通信委員会の決定の撤回を求める嘆願書を提出した。この嘆願が聞き届けられるためには議会の採決が必要なのだが、21の州は採決の見込みがあるとみている。というのも、この動きの後ろ盾には民主党がいるからだ。そして、上院の民主党議員によると、この嘆願に関してすでに議員の半数にあたる50人の賛同を得ているのである。

◆中間選挙を見据えている民主党
 もっとも、ネット中立性の規制を取り戻すためには、上院で過半数の賛意を得ることに加えて、共和党が多数を占める下院でも同様の手続きが必要となる。さらにその先には、大統領の拒否権というハードルがある。共和党主導で撤廃した規制を復活させる決定に対して、トランプ大領領が拒否権を行使しないはずがない。実のところ、ネット中立性を奪回する戦いは、かなり「分が悪い」ものなのだ。

 勝利への道が険しいにもかかわらず、民主党がネット中立性をめぐる戦いを続ける理由について、ワシントン・ポスト紙は、今年行われる中間選挙に絡めて分析する記事を掲載した。それよると、民主党がネット中立性をめぐる戦いを続けるのは、この戦いを通じて共和党に「インターネット業界の成長を妨げる決定を下した政党」という負のイメージを植え付けるためなのだ。そして、負のイメージを植え付けられた共和党と中間選挙を戦えば、その勝利は確実だろうというわけである。実際、ネット中立性をめぐる戦いを通じて、民主党は若者層の注目を集めていることを同紙の記事は伝えている。

◆ネット中立性の撤廃は対中貿易の武器になる?
 以上のようなネット中立性をめぐる駆け引きは、アメリカ国内市場だけではなく、国際貿易にも影響することをボイス・オブ・アメリカは指摘している。同局の「アメリカのネット中立性の動きによって中国インターネット企業との貿易戦争が引き起こされる可能性がある」というタイトルの記事では、ネット中立性に関する規制の撤廃は、中国系インターネット企業のアメリカ進出を阻止する武器となることが説かれている。ネット中立性に関する規制が廃され、プロバイダーが自由に回線サービスを提供できるようになれば、アリババのような中国系巨大インターネット企業がアメリカに進出しようとしたとき、中国系サービスをブロックして進出を阻止できるようになる、というのだ。

 ネット中立性に関する規制の撤廃は対中貿易に使えるカードになるというロジックは、「アメリカ・ファースト」を標榜するトランプ政権ひいては共和党にとって、民主党が押し付けようとしている負のイメージを払いのけるのにうってつけのものとなるだろうか。どうやらこの戦いの決着は、中間選挙まで持ち越されそうだ。

Text by 吉本 幸記