仏、フェイクニュースに徹底抗戦 民主主義のジレンマ克服できるか

Francois Mori / AP Photo

 民主主義国がフェイクニュースを違法にできるのか?

 フランスはまもなくその答えを知ることとなる。エマニュエル・マクロン大統領が、選挙戦で拡散される虚偽の情報を封じ込めるための法律を制定した後に。

 メディア擁護団体、テクノロジー専門家、そして、ロシア政府の息がかかった放送局RTから批判が寄せられている。この法律は独裁政治を想起させる、施行は不可能だ、失敗は目に見えているというのが彼らの言い分だ。

 マクロン大統領の姿勢について、「自由言論の監視が実際に始まりかねません。極めて危険な事態だと確信しています」と、開局間もないRTフランスのディレクターを務めるジニア・フェドロヴァ氏はAP通信に語った。

 しかし、マクロン大統領が論じているのは、デマがまたたく間に世界中の人々に広まり、政治的操作がますます巧妙化している世界において看過できない問題なのだ。

 1月11日に米民主党が発表した議会報告書には、サイバー攻撃、虚偽情報、ソーシャルメディアの秘密作戦、過激派政党への資金供与、極端な例では暗殺未遂によって、欧州19ヶ国の政治を弱体化せんとする、2016年以降のロシアの明白な企てが詳述されている。マクロン大統領自身、昨年の大統領選挙戦で大規模なハッキング攻撃を受けたが、後日、ロシアの介入を示す証拠はなかったと政府が発表した。

 プロパガンダと虚偽情報はロシアの専売特許ではない。フェイクニュースの歴史は、古くはジョージ・ワシントン氏の桜の木――米初代大統領にまつわる偽りの不朽の伝説――にまで遡ると、作家で科学技術史研究家のエドワード・テナー氏は主張する。

 虚偽の公表への対抗手段として名誉毀損法に頼るのが民主主義国の常だが、マクロン大統領はより効力のある法律を制定しようとしている。

 報道関係者に向けた新年のスピーチで、オーナーとスポンサーの開示をニュースサイトに義務付ける新たな「法的手段」の制定を目指しているとマクロン大統領は述べた。この法律により、選挙妨害が目的とみなされるコンテンツの資金制限が可能となり、ウェブサイトを閉鎖する緊急法的措置が認められることになる。投票の不安定化を目論んでいるとみなされる、特に「外国勢力の支配もしくは影響を受けた」メディアの放送中止を許可するためにフランスの報道監督機関である視聴覚最高評議会(Conseil supérieur de l’audiovisuel: CSA)の権限が拡大される見込みだ。

 そのメディアとはおそらく、昨年の仏大統領選挙で極右候補のマリーヌ・ル・ペン氏にとって好都合な報道をし、多くの人々がロシア政府の手先だと考えているRTのような放送局を指している。そして、仏大統領選挙戦の最中、マクロン氏が同性と不倫しているというデマを報道して話題を集めた、RT傘下の通信社スプートニクのことも。

 デマを否定し、ル・ペン氏を下したマクロン大統領だが、喉元過ぎれば熱さを忘れるとはいかなかった。

 我々は不当に標的にされていると、セーヌ河岸にある開局間もないRTフランスのスタジオでディレクターのフェドロヴァ氏は語る。同氏によると、フランスでの開局は困難を極め、昨年、マクロン大統領がロシアの影響下にある「機関」だとRTとスプートニクを非難して以来、記者たちは日常的に大統領官邸のエリゼ宮殿から締め出されているという。

 RTフランスの報道は、路上の暴力と移民に若干偏ってはいるが、ほかのフランスのネットワークとさほど違いがないように思われる。最大の違いは、ロシア政府とシリア政府の見解を強調してシリア問題を大々的に報道している点だ。

「RTは、さまざまな意見に発表の場と機会を与えるべきという立場を取っています。大局を見るためには多様な意見が不可欠だと、私個人は信じています」とフェドロヴァ氏。RTはマクロン大統領の計画を注意深く見守る構えだ。

 報道規制を監視する機関である国境なき記者団(Reporters Sans Frontières: RSF)も動向に注目している。同団体は、不正の暴露や情報の検証に懸命に取り組んでいるジャーナリストを弱体化させるとしてフェイクニュースを非難しているが、今回の大統領令を警戒している。

「フェイクニュースを取り締まる法律の原則に異議はありません。ただ、問題は、表現の自由を脅かすことなく法律を作れるかということです」と、同団体の事務局長クリストフ・ドロワール氏はAP通信に語った。

「おそらく、わが国の民主主義はフェイクニュースの波から守られるべきなのです」と同氏は語った。ただし、「独裁国家が用いる方法で」はなく。

 RSFはパートナーとともに、独自の検証法、資金に関する透明性、その他の基準に基づき情報源を分類できる可能性認証制度に取り組んでいる。何を信じるかは市民の判断に委ねられる。

 フランス政府がこの法案を準備するにあたっては、ソーシャルネットワーク上のヘイトスピーチを規制する今月施行されたドイツの法律の教訓が生かされるだろう。風刺作家やジャーナリストによる合法的な投稿が誤って捜査の網にかかることを危惧する声もある。

 ウェブサイトの閉鎖も、さらに注目が集まり逆効果になりかねない。

「フェイクニュース問題の唯一の長期的な解決策は、市民が今以上に賢明になることです」と前出のテナー氏は語った。

 ウェブサイトのスポンサーとなるダミー会社を設立したり、「正確な事実をねじ曲げて誤解を与えたり扇動したりする記事」を書いたりして、「どのような規制があろうと、巧妙に事実を操る人々はかならず抜け穴を見つけます」。

 情報技術革新財団(Information Technology and Innovation Foundation: ITIF)副代表ダニエル・カストロ氏は、「人々はフェイクニュースを好みます。その類のニュースは自らの信念を強化するので」と別の問題を指摘する。

 マクロン大統領は選挙の資金と透明性に関する「非常に有効な対話」を促進している。しかし、「フェイクニュースを定義する際に問題にぶつかります」と同氏は語った。

 マクロン政権のデジタル担当大臣を務めるムニール・マジュビ氏は、今後の課題について明確なビジョンを持っており、「これは議論の始まりです。我々は性急に事を進めるつもりはありません」とAP通信に語った。

 とりわけ、イタリア、ロシア、アメリカで今年行われる選挙、そして来年の欧州議会議員選挙に関して、各国の政府は安閑としてはいられないと同氏は強調する。

「我々はこの問題にどう対処できるかを問い、一丸となって取り組まなければならないのです」。

By ANGELA CHARLTON and OLEG CETINIC, Paris (AP)
Translated by Naoko Nozawa

Text by AP