ハワイ誤警報:恐怖を実感した島民たち、その中に生まれたものとは

Jhune Liwanag via The AP

 先週、ハワイにいる百万人以上の人たちをまもなく核ミサイルの標的となるだろう、という恐怖のどん底に陥れる失態を政府が犯した。一夜明けた14日、本当の緊急事態が発生した時に、政府が正確な情報を正しく人々に伝達し続ける能力を有するかどうかについて、人々は大きな懸念を抱くようになってしまった。

「これは訓練ではない」と人々を脅かすような文言とともに、直ちにシェルターへ避難し、身を隠すように呼び掛ける誤った警報が島中の人たちの携帯電話に一斉送信された翌日も、ハワイの住人や旅行者たちは一様に困惑したままだった。

「こういった極めて重要な情報を正確に広めることができる、いわゆるリーダーと呼ばれる人たちが本来備えるべき能力に対する私の信頼は、間違いなく色あせてしまった」とパトリック・デイ氏は話した。同氏は13日の朝、警報を受信してベッドから飛び起きた。「今後、どのような警報を受信したとしても、私は、その勧告に従って行動を起こす前によく考えなければならないだろう」と、動揺を隠しきれない表情で語った。

 ハワイ州立緊急事態管理局によると、日頃テストを実施している担当者が、勤務の交代時に誤って警告の送信ボタンを押してしまい、誤警報が一斉送信されてしまった、という。

 当局は、誤報を再び送信しないことを保証し、住民たちを安心させようとした。緊急事態管理局は警報送出の手続きを変更し、2名の担当者によって警報は送出されるようにし、また、誤報を容易にキャンセルできるようにした。この変更には40分近くの時間を必要とした。

 ドナルド・トランプ大統領は、連邦政府はハワイの態勢に「関与していく」と語ったが、詳しい内容には言及しなかった。

 この誤報は、のんびりした楽園として知られるハワイ諸島全体を、世界滅亡の日がやってきた、とばかりにパニックに陥れた。両親は子供たちを抱きしめ、バスタブ内に身を寄せ合って祈りを捧げた。ハワイ大学の学生たちは、建物内に避難しようとキャンパス中を逃げまどった。運転中のドライバーたちは、車をハイウェイの路上に放棄し、トンネル内へ避難した。他の人たちは、自分ではどうすることもできない運命に身を委ね、ミサイルが飛来するのをただ漠然と待っていた。

 オアフ島の911救急システムには5,000件以上のコールが殺到した。ホノルルのカーク・コールドウェル市長は、誤警報と判明するまでの間、深刻な緊急事態は発生しなかった、と語った。

 何が誤報の原因だったのかを特定する連邦通信委員会(FCC)の調査は、日曜日も依然、続いている。FCCは、ハリケーン、山火事および鉄砲水への警報や行方不明児童の捜索の発表を伝達するために地方、州、もしくは連邦の当局者が定めるべき無線緊急警報発令のルールを定めている。 

 アジット・パイFCC委員長は声明を発表し、ハワイ州は「誤った警報の送信を防ぐ合理的な措置の実施や手順管理を怠っていた」と言い、今回の失敗を「絶対に容認することはできない」とした。

 同氏は、「誤警報は、警報システムに対する国民の信頼を著しく損ない、実際の緊急事態における警報の有効性を低下させてしまう」と言った。

 アメリカ合衆国国土安全保障長官、キルステン・ニールセン氏は、アメリカ国民に対し、自国の政府に対して不信感を抱いてはならない、と強く訴えた。

「FOXニュース・サンデイ」に出演したニールセン氏は、「私は、政府機関が発令する警報や警告を順守しようとしない人々は大嫌いだ」と語った。「政府のシステムに全幅の信頼を寄せて欲しい。私たちは常時、システムのテストを念入りに実施している。今回の誤報は、実に不運なアクシデントだったが、これらの警報は極めて重要だ。かけがえのない人命救助は、一分一秒を争うものだから」とも話した。

 今日、携帯電話はいたるところに普及しているため、無線緊急警報は広い範囲のユーザーに素早く情報を伝達することが可能だが、あまりにも広範囲に情報が送信された場合、パニックを引き起こす懸念がつきまとう。

 10月に北カリフォルニアで大規模な山火事が発生し、40人が犠牲になった時、人々の携帯電話に警報を送信しなかった当局に非難が集中した。当局の担当者は、警報を送信すべき対象者を正確に絞り込むことができなかったため、実際には危険に晒されていない人々も含めて大規模な避難が発生し、消防や救命活動の妨げとなる交通渋滞を引き起こす恐れがある、として無線緊急警報システムを使わないことにしていたのだ。

 ホノルル東部に住むソーシャルワーカーであり、2児の母でもあるリサ・フォクセンさんは、ハワイ当局の関係者が必要なシステム変更を実施し、システムの信頼性を回復することを期待している、と語った。今回の恐怖を体験して良かったことは、真の脅威が迫ってきた時にどのようなプランを立てていれば良いのかについて家族みんなで考えるきっかけになったことだ、と彼女は言う。

「そのとき、私はヘッドライトの光を突然浴びた鹿のようでした」と彼女は話した。「私は、ハリケーンの時は何をすべきか知っています。地震が起きたときはどうすれば良いか分かっています。しかし、ミサイルといった類のものには、どう対処していいかわかりません」と、困惑を隠しきれない表情を浮かべて言った。

 北朝鮮がミサイルの試験発射を繰り返し、核を保有する軍事国家としての威力を誇示し続けている今、誤警報が国家安全保障について幅広い議論を引き起こした。北朝鮮の指導者、金正恩もツイッター上で自国の保有する兵器に関してドナルド・トランプ大統領と罵り合いを繰り広げた。

 この対立が、ハワイにおける核の脅威に対する認識をあらためさせ、国際的な注目を集めた冷戦時代の警報サイレンテストがハワイ全島で復活するきっかけとなった。

 ハワイ民主党に所属するトゥルシー・ギャバード米国下院議員は、当局はこの警報の背後にある「リーダーシップの壮大な失敗」についての説明責任がある、と語った。同氏は、トランプ大統領が金正恩と会談し、無条件で話の折り合いをつける必要があることを核の脅威がことさら強調している、と言った。

「現実的ではない前提条件」を設定することで「ハワイの人たちは、何十年にもわたってこの国にリーダーシップが不在だったことの対価を払っている」とも言った。さらに、「この国の指導者たちは、人命が危機に晒されていることを心の底から理解する経験を積む必要がある」と話した。

 オーケストラ指揮者、フィリップ・シモンズ氏は、今回の誤警報は自身の人生で最も恐ろしい出来事の一つであり、どう対応して良いかわからなかった、と述べた。そして、ハワイ州知事のデービッド・イゲ氏をはじめ大統領に至るまで、政府関係者は全員辞職すべきだ、と鼻息も荒い。

「政府は徹底的にしくじった。彼らはこの国の人々を守り、何が起きようとしているのかを人々に知らせることが全くできない。完全に無能だ」とシモンズ氏は言った。

 ハワイ州の警報システムが誤報を送信したのは、今回が初めてではない。先月のテスト運用期間中、同州の386回のサイレンテストのうち、12回で救急車がサイレンを鳴らして要請に駆け付ける騒ぎとなった。ワイキキにある観光拠点では、サイレンは微かに聞こえる程度だったため、当局関係者がさらに多くのサイレンを導入し、すでに設置してあったサイレンを再配置することになった。

By JENNIFER SINCO KELLEHER and BRIAN MELLEY, Honolulu (AP)
Translated by ka28310 via Conyac

Text by AP