絶大な人気とカリスマ性、オプラ・ウィンフリーは次期大統領選に出馬するのか

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 女優たちがこぞって黒いドレスを着てレッドカーペットを歩き1月6日のゴールデングローブ賞授賞式は、ハリウッドにおけるセクハラや賃金格差に対する抗議イベントと化した感がある。このイベントの出席者の1人にアメリカのメディア女王として君臨するオプラ・ウィンフリーがいた。黒いドレスを着たオプラは「セシル・B・デミル(Cecil B. de Mille賞)を受賞。その壇上でかなり政治的なスピーチを行い、「次の大統領選に出馬する意思があるのでは」と全米を驚かせたのである。

◆アメリカンドリームを実現したエンターテインメント女王
 オプラは日本でこそそれほど知名度が高くないが、アメリカ人ならば知らない大人はまずいないというほどの、エンターテインメント界の超大物である。アフリカ系黒人アメリカ人であるオプラはミシシッピ州の貧しい家庭に生まれ、性的虐待を受けて育ったという。

 10代で放送業界に入り巧みな話術で人々を魅了。大学在学中にキャリアを積んだ彼女は、卒業後そのまま放送業界に留まり、80年代にはシカゴで自分自身のトークショーを持つまでになった。その後自身のプロダクション設立、雑誌「O(オー)」創刊、ケーブルチャンネル創設などを経て、オプラはほぼ自分だけでエンターテインメントの一大帝国を築き上げたのである。

 ウェブサイト『Celebrity Net Worth』によると、オプラは現在32億ドル(約3,570億円)の価値があるといわれる。ゼロから始めてアメリカンドリームを実現した努力家の女性である。

 彼女が出世したのはもちろん努力だけではない。人種を超越しアメリカ人の絶大な支持を受ける彼女は、どんな人にも希望を与える話術と人間性で好感度が高く、人の心に深く入り込む類まれなる才能とカリスマ性を持ち合わせているのだ。

◆アメリカのエンターテインメント業界と政治の関係
 アメリカ人はとにかくカリスマ性のある人物が好きだ。元ハリウッド俳優の故ロナルド・レーガン元大統領やアーノルド・シュワルツネッガー元カリフォルニア州知事、政治家としてはそれほど長い経験はなかったものの、若さ、野心、カリスマ性が群を抜いていたバラク・オバマ前大統領、そして政治経験皆無のドナルド・トランプ大統領が選挙で当選した過去からもそれは判るだろう。

 オプラ・ウィンフリーは熱心なオバマ前大統領支持者だった。その後、2016年の大統領選や、大きなムーブメントに発展したハリウッドや政界のセクハラ・性的暴行疑惑で彼女の社会的正義感に火がついたのかもしれない。自分自身の人気とカリスマ性を熟知する彼女が政界への進出を考えても不思議ではない。

◆オプラ、2020年大統領選に出馬か
 オプラはスピーチで、子供の頃に黒人俳優シドニー・ポワチエがアカデミー賞主演男優賞を受賞するのをテレビで観て、黒人男性が祝福されている様子に衝撃を受けたこと、そしてハリウッドを始め、様々な場所で女性たちが男性による虐待に耐え続けてきたことに言及。「#MeToo」「#TimesUp」などのムーブメントを引用しスピーチは政治的トーンを増した。

 スピーチの終わり近くでオプラが「新しい日が今まさに始まろうとしている(New day is on the horizon)!」と声高に叫んだとき、会場は総立ちで拍手喝采した。その口調はまさに「大統領的」で、オバマ前大統領が2004年の民主党全国大会で行ったスピーチの印象に似ていた。

 その後、アメリカのメディアは「オプラが2020年大統領選に出馬か」という話題で持ちきりになった。CNNは8日付の報道でオプラが「大統領選出馬を積極的に検討している」と伝え、オプラの親友や長年のパートナーもオプラ出馬の可能性について肯定的なコメントをしている。

◆「セレブの政界進出」に疲れたアメリカ
 オプラの人気とカリスマ性、話術と社会的貢献度を否定する人はいない。しかし政治に関していえばリアリティ番組ホストから大統領に当選したドナルド・トランプ氏と同じく「ド素人」。トランプ氏の言動に毎日振り回されているアメリカは「政治経験のないセレブリティの政界進出」という構図に疲れ果てている。

 また2020年は民主党からジョー・バイデン前副大統領も大統領選出馬の動きを見せているため、予想としては民主党はオプラを大統領選候補として真剣に考慮することをためらう可能性が高い。実際CNNによる1月8日付の報道でも同党下院トップのナンシー・ペロシ院内総務がオプラの2020年出馬に対し消極的な姿勢を示している。

 トランプ氏が政治と合衆国憲法を引っ掻き回し続ける今、2020年に限って言えば政治経験のなさは致命的打撃だ。しかしバイデン前副大統領が大統領候補、オプラが副大統領候補として出馬すれば、トランプ氏打倒も夢ではないはずだ。

Text by 川島 実佳