米アラバマ州で起きた「マイノリティの逆襲」 2018年中間選挙の予兆となるか

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 12月12日に米南部アラバマ州で実施された上院特別選挙は、大方の予想を覆し民主党のダグ・ジョーンズ氏が勝利した。しかも、共和党候補の元連邦裁判所判事ロイ・ムーア氏の大幅なリードを最後の最後で追い上げた劇的な勝利だった。CNNが最初にジョーンズ氏の当確を発表した時、東海岸はすでに真夜中だったが、ショックで米国中がまるで大統領選の結果が出た時のような騒ぎとなった。米国民は、「超」が付くほど保守的な深南部アラバマ州のロイ・ムーア氏支持について半ば諦めており、ダグ・ジョーンズ氏の勝利は誰も期待していなかった。

◆選挙終盤までリードを続けたムーア氏の敗北
 ロイ・ムーア氏は同州で連邦裁判事を務めていた際、憲法違反を犯し2度職を追われた過去を持つキリスト教右派の人物だ。2017年に同州選出のジェフ・セッション上院議員が司法省長官としてトランプ政権入りすると、空席となったセッション氏の議席を狙い立候補した。

 一方、同じく立候補した民主党候補の弁護士ダグ・ジョーンズ氏は、2002年に人種差別団体クー・クラックス・クラン(KKK)のメンバー2人を1963年に発生した黒人教会爆破事件の容疑者として起訴し、有罪に導いた人物。素晴らしい経歴を持つジョーンズ氏だが、宗教色が強く共和党支持者が多い同州では、過去25年間民主党員が選出されていない背景があった。

 その後10代の少女に対する性的虐待容疑が明るみに出たにもかかわらず、特に白人層にはムーア氏の人気に大きな陰りは見えていなかった。

 しかし選挙当日の12日夜、開票が最後に迫った夜中近く、ジョーンズ氏の票が突然伸び始め、急激にムーア氏の得票数に迫ってきた。開票は共和党支持地区から行われたらしく、後になって大都市など民主党支持層が多い地区に移ったらしい。その勢いは収まらず、ジョーンズ氏の得票数はみるみるうちにムーア氏を抜き、民主党支持層が厚い地区の開票を残して当確が出た。

 アトランティック誌(電子版、12日)の記事によると、今回の選挙では同州の「ブラックベルト」と呼ばれる黒人居住地区の投票率が通常よりかなり高かったという。逆に、郊外や農業地帯の白人居住区では投票率が通常より低かった。ムーア氏を支援すると言いつつ、「小児性愛者」というレッテルを貼られた同氏に投票をためらった白人層も多かったと思われる。

◆白人68%がムーア氏、黒人96%がジョーンズ氏を支持
 しかしジョーンズ氏勝利直後は、誰も勝利の理由がはっきり分かっておらず、ムーア氏の敗因は大々的に報道された10代少女たちに関するスキャンダルであると思われた。

 しかし選挙結果が出た後、そこには意外な事実があった。CBSニュースによる13日付記事によると、同日の上院特別選挙で投票したアラバマ州民のうち、白人の30%がジョーンズ氏、68%がムーア氏に投票。しかし黒人は96%がジョーンズ氏に投票し、ムーア氏に投票したのはわずか4%だった。

 また共和党員91%がムーア氏、8%がジョーンズ氏に投票(残り1%は「Write‐in」という書き込みの候補者に投票)、民主党員は98%がジョーンズ氏、2%がムーア氏に投票。共和党員に多少寝返りが多かったことが分かる。

 男女別では57%がジョーンズ氏、41%がムーア氏。また若年層でも60%がジョーンズ氏に投票するなど、保守的な州でも若年層には民主党支持者が増えてきていると思われる。この選挙の黒人票は全体の28%で、通常より投票率が高かったという。ジョーンズ氏の勝因は黒人票の多さだったのである。

◆黒人有権者が投票に出かけた理由
 普段は投票を控えることの多いアラバマの黒人住民たちが、この選挙で立ち上がった理由はいったい何だろうか。それはアラバマ州における黒人奴隷の歴史とその後も続く黒人差別文化であろう。

 8日付のMSNBCニュースの記事によると、ムーア氏は選挙期間中、黒人有権者に「アメリカが偉大だった時代とはいつか」と聞かれ、「アメリカは奴隷制の時代に偉大だった」と答えたという。ムーア氏の回答は、白人アラバマ州民の黒人に対する姿勢を端的に表現していたのかもしれない。ムーア氏のスキャンダルよりも、この答えに憤りを覚えた黒人有権者も多かっただろう。

 かたやジョーンズ氏といえば、前述した黒人の少女4人が死亡した教会爆破事件でKKKのメンバーを起訴し有罪に導いた現代の公民権ヒーローだ。静かな怒りを抱えて続けてきた黒人有権者たちがジョーンズ氏のために立ち上がり、投票に出かけたのはごく自然なことであり、かつ選挙前は誰も予測をしなかったシナリオだったのだ。

 白人層にアピールし、マイノリティ(少数民族)を軽んじる傾向のあるトランプ政権と共和党はアラバマ州の上院特別選挙結果に驚愕したに違いない。マイノリティ逆襲の波は、今後2018年の上下院中間選挙、2020年の米大統領選挙でも続いていくだろう。

Text by 川島 実佳