セクハラ疑惑は「否定するが勝ち」か 米政治に見るダブルスタンダード

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 アメリカ南部アラバマ州で12月12日、同州選出の米上院議員だったジェフ・セッションズ現司法長官の後継を選出する特別選挙が実施される。この選挙に立候補しているのが民主党候補のダグ・ジョーンズ氏、そして共和党候補のロイ・ムーア氏だ。

 ジョーンズ氏は2002年、米国連邦政府検察官として1963年に起こった人種差別団体クー・クラックス・クラン(KKK)のメンバー2人を黒人教会爆破事件の容疑者として起訴し有罪判決に導いた人物。一方ムーア氏はアラバマ州最高裁判事時代、憲法違反により職を追放されたキリスト教右派で、根強い保守色が残る深南部州では人気が高く選挙戦序盤ではジョーンズ氏を圧倒的にリードしていた。

◆セクハラ疑惑で守勢を強いられた共和党候補
 そこに降って湧いたのが、ムーア氏が30代当時に14歳の少女に対して行ったセクハラおよび性的虐待疑惑だ。その後次々と当時未成年だった被害者が名乗りを挙げ、今のところ10人前後の女性が被害を主張している。ABCニュースの11月16日付記事によると、当時の同氏につきまとわれていたという女性は、ムーア氏が少女達が多く集うショッピングモールから出入り禁止措置を受けたと証言している。

◆共和党と民主党で態度を変えるトランプ大統領
 ムーア氏は一連の疑惑を否定し疑惑を報道したメディアを激しく批判しており、同氏の支持者はそんな彼の言葉を信じているらしい。CNNは11月13日、ムーア氏の支持者の大半は性的虐待容疑を「信じない」「証拠がない限り100%彼を支持する」「イエスの両親、ヨセフは成人で、マリアは10代の少女だった。何もおかしくない」と主張していると報道した。

 一方、その後アル・フランケン上院議員(民主党、ミネソタ州選出)がコメディアン時代「性的に不適切な行為をした」というニュースとその証拠となる写真が報道され、フランケン氏はその事実を認め謝罪。このせいか民主党はムーア氏非難を控え、アラバマ州の特別選挙について多くを語っていない。

 トランプ大統領はムーア氏の疑いについて発言を控えていたが、フランケン氏の記事が出るやいなやツイッターで「(フランケン氏の写真は)最悪だ。写真が多くを物語っている」と非難。政治的ダブルスタンダードを堂々と見せた。

 トランプ大統領も昨年の大統領選中、セクハラ行為を自慢した過去の音声テープを暴露され、多くの女性たちからセクハラ容疑をかけられた過去を持つ。しかしムーア氏の一連のスキャンダル、そして疑惑に信憑性があるにもかかわらず真っ向から否定する態度と支持者の容認姿勢に共感を覚えたらしい。ホワイトハウスで行った記者会見で「彼(ムーア氏)は疑いを否定している」と擁護とも取れる発言をし、ABCニュースによる11月26日の報道では今になりセクハラを自慢した音声テープの信憑性を自ら疑う発言をしているという。

◆セクハラは否定が勝ち? 特別選挙で明らかになる真実
 共和党議員の大半はムーア氏のネガティブなイメージを恐れ、同氏に対し強い言葉で出馬撤退を要求しているが、ムーア氏は疑惑を否定したまま来月12日の上院特別選挙を乗り切る考えらしい。トランプ大統領もムーア氏も「証拠を突きつけられない限りは否定するが勝ち」と方向性を定めたようだ。

 政治情報サイト『RealClearPolitics』が報道したアラバマ州特別選挙の最新世論調査では、一時支持率が下がったムーア氏が盛り返し、拮抗した状態が続いている。トランプ大統領とムーア氏の「疑惑否定作戦」が吉と出るか凶と出るか、その選択はアメリカで最も保守的といわれるアラバマ州民の手に委ねられている。

Text by 川島 実佳