メイ英首相、「日本を安心させる」使命を帯び来日 EU離脱控えた英国の焦りと期待

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 イギリスのメイ首相が30日から来月1日までの日程で来日している。イギリスのEU離脱(ブレグジット)を前に、日本企業はイギリスでの事業縮小の方向に動いている。今回の訪問では、これに歯止めをかけるべく貿易交渉の下地作りをしたい意図もイギリス側にあるようだ。

◆日英の姿勢に温度差
 イギリス国内には現在、多くの日系企業がヨーロッパ地域の本社や生産拠点などを構えている。EU単一市場へのアクセスを前提とした選択だが、フィナンシャル・タイムズ紙は、各社がブレグジットの影響を懸念し、イギリス依存からの脱却を図っていると伝える。EU圏への自由なアクセスの原則が崩れれば、イギリスの生産拠点を他国に移すことに合理性が出るためだ。メイ首相は訪問中に日本との貿易交渉の下地を作り、日本との連携を強化したい考えだ。

 しかし、オブザーバー紙が述べるようにEUのルールでは、イギリスが貿易圏を離脱するまでは正式交渉を開始できない。加えて日本としては、イギリスがEUとの自由貿易交渉を成立させるのを待つ方が、イギリスに生産拠点を構える国内企業に有利だという考えが働く。同紙によると日本企業はイギリスで合計14万人を雇用しているとのことで、企業が国外移転すれば雇用への影響も甚大となる。

 このためメイ首相は、日本との交渉を急ぐと見られる。しかしガーディアン紙は、安倍首相としては乗り気でないとの見方を伝える。日本企業がブレグジットの影響を受けないようイギリス政府からの保証を望んでいるとのことで、日本との貿易協定を交わしたいメイ首相に同調するかは不透明だ。

◆すでに脱イギリスへ舵を切りつつある日本企業
 イギリスでの具体的な状況としては、同国に拠点を置く複数の日本企業が、すでに他のEU加盟国への移転を議論し始めている段階にある。対応に追われるメイ首相は日産に対し、ブレグジットの影響を受けないよう配慮すると個別に確約している。他にもホンダやトヨタなどが悪影響を懸念している。

 金融各社にも動揺が広がっており、オブザーバー紙では日系各社がロンドン以外の拠点を模索し始めていると報じている。大和証券がフランクフルト支社の開設を発表したほか、野村証券も同地に拠点を設けるとの観測がある。また、三菱UFJフィナンシャル・グループもアムステルダムへの移転を計画中と報じられている。

◆若干弱腰とも取れるイギリス 日本企業には交渉の好機か?
 多くの企業がイギリス重視の施策を転換する中で、窮地に追い込まれたイギリス政府に対して交渉を有利に運ぶ機会だとする意見もある。オブザーバー紙は日本の金融関係者のコメントとして、例えば日立などの大企業は現地に残るだろうが、人材の雇用や解雇などをより柔軟に行えるよう求めるなど、現地政府との交渉の好機だとする見方を伝えている。

 イギリス国内からも、メイ首相の交渉姿勢はあまり強気なものではないとの指摘が出ている。インディペンデント紙(8月30日)によると、今回の来日を前に英官邸関係者は、日本がEUと大枠で合意した貿易協定と同等の内容を目指すと公言している。この発言に対し野党議員は「政府によるこの声明は、交渉の戦略に全く新しいレベルの不条理さを加えただけだ」と辛辣だ。最善でもEUと同等の協定しか確保できない交渉の進め方について、国内からも反発があった模様だ。

 関係作りを急ぎたいメイ首相に対し、安倍首相はEUとイギリスの協定の動向を伺うと見られ、両者の思惑はすれ違いの様相を見せている。来日中の会談でどこまで実効的な話し合いができるかが見守られるところだ。

Text by 青葉やまと