政治的暴動を予測することはできるのか?

ymphotos / Shutterstock.com

著:Mohammad Reza Farzaneganマールブルグ大学 Professor of Economics of the Middle East)

 政情不安を予測する、ということは、とりわけ真実が無関係になり、世論調査の結果が大きくものをいう今日という時代における課題である。

 ポール・コリアー氏やアンケ・ヘフラー氏などの経済学者が実施した1998年と2002年に実施した複数の研究の中で、所得の伸びの低調さや自然資源への依存度などの経済的指標によって政治的混乱をどのように説明し得るのか、ということに関する仮説が示された。さらに具体的に言うと、一人当たりの収入が低いことは、市民秩序の不安の大きな原因となってきた。

 経済学者ジェームズ・フィアロン氏とデイビッド・レイティン氏もまた、チャド、スーダン、ソマリアで政治的暴力が発生した際、具体的な個々の要因がどのように重要な役割を果たしたのかをこの仮説に従って解説した。

 国際カントリーリスクガイドの指数によると、スーダンの内政安定度の指標は、2014年には前年比で15%低下した。この減少は、1人当たりの所得の増加率が2012年の12%から2013年には2%へと減少した後でのことだった。

 対照的に、1996年と比較して1997年の1人当たりの所得の増加が増加したとき、スーダンの政治的安定度の指標は1998年に100%以上増加した。従って、ある年の政治的安定の指標はその前年の所得の伸びが反映される、と考えて良いようだ。

◆経済が嘘をつく時
 しかし、世界銀行が認めたように、「経済指標はアラブの春の予測に失敗した」。

 国内総生産、貿易、海外直接投資など、通常用いられる経済評価指標は、10年以上にわたってアラブの春に関与した国々の経済発展とグローバリゼーションの伸張を示していた。しかし、2010年には、チュニジア、エジプト、リビアなどの国々で前例のない暴動が蜂起し、結果として政権の崩壊を招いた。

main

トルコの若者 thomas koch / Shutterstock.com

 我々は、2016年の調査で1984年~2012年の間の100カ国以上のデータを使用した。政治的混乱の発生をよりよく理解するために、経済学以外の基準を検討したかったのだ。

 15歳~24歳の青少年が成人の人口の20%を超えるとき、政治的腐敗がどのように不安定化の要因になるのかを調べ、定量化した。

 この調査における2つの主要な要素、すなわち人口統計と政治的腐敗について調べてみよう。

◆怒れる若者たち
 人口学的な統計の重要性とその政治的安定度への影響は、長年にわたって研究されてきた。

 米国の学者サミュエル・P・ハンティントン氏は、1996年の著書「文明の衝突」の中で、若者がどのように政治の変局を代弁しているかを説明した。

 2000年代初頭になると好例がいくつか見つかる。ユーゴスラビアのブルドーザー革命(2000年)、クルジアのバラ革命(2003年)、ウクライナのオレンジ革命(2004年)、2009年の大統領選挙後のイランにおける緑の革命運動、そして最後にアラブの春(2011年以降)において若者の活動が特に活発だった。

 しかしながら、特定の国において、25歳未満の人口の大部分が必ずしも革命を惹起するわけではない。たとえば政治体制的な腐敗に手を染めたそのような国々の指導者が若い市民を騙そうとして失敗した時、政治的混乱を招く危険性が非常に高まる。

◆政治的腐敗の始まり
 非・民主主義的な指導者は、政治的腐敗によって依存しあう互いのつながりを利用して政治的な相互支援を構築し、政権の存続期間を延長しようとする。

 政治学者のナターシャ・ニュードルファー氏とウルリケ・シアカウフの両氏が2014年に行った研究では、受益者が所得を増やす一方で、経済成長と投資が停滞するにつれ人口の大部分が不平等を感じる、という政治的腐敗の対比性を示唆している。特に、まだ社会システムの構成員となっておらず、経済的な機会を手にすることが少ない青少年層に大きく影響を与える。

 独裁政権によって政治的腐敗が横行する国家では、軍事・治安部隊に予算の大部分が配分され、一方で教育と医療・保健分野への予算配分は不足している。このような状況は、過激分子を含め、反体制運動への青少年の執着を刺激する可能性がある。

 ナイジェリアの学者フリーダム・C・オヌオハ氏によると、イラク、シリア、およびナイジェリアのテロ集団の形成と永続の裏には、政治的腐敗がある。これらのテロ集団は、隆起する青少年層の主流から社会的に疎外された層を惹きつけることに成功した。

 しかし、青年だけが政治的不安を惹起するのではないのと同様、政治的腐敗だけで政治的不安が生じるわけではない。政治腐敗に苦しむ人口全体の中で、若者層が一定量含まれている、という組み合わせが必要である。

◆イランの場合
 その好例がイランだ。この国は、1979年にイスラム革命が石油収入によって繁栄していた君主制を終結させた時、20世紀における最も重要な政治的変化の1つを経験することとなった。

 1970年から1973年までの石油収入への依存度は、全経済に対し1%以下であった。世界銀行によると、1970年代半ばからの大幅な原油価格の上昇が、1973年の0.3%から1974年の31%というイラン経済の石油収入への依存の巨額の増加につながったのである。

main

イランのイスラム革命記念日の祝祭 serkan senturk / Shutterstock.com

 世界銀行の健康栄養と人口統計(Health Nutrition and Population Statistics)に基づく私の計算結果によると、成人人口全体において15歳から24歳までが占めるシェアは、1960年から2016年の間の数値である20%を上回っている(2016年の19%を除く)。

 この期間中、我々は、1970年の33%から1979年の約36%というイランにおける隆起する青少年層の継続的な増加(イランの人口動態記録の中でも最高値となる増加)を観察した。(世界銀行の人口推計と予測、2017年発表。)

 石油収入が増加し、生産と流通に関連した多様な活動が行われ、1985年以前のデータは無いものの、日常様態としての政治的腐敗が浮上してきた。

 1997〜98年には、成人人口における15歳から24歳のイラン人のシェアは36%に達した。(世界銀行の人口推計と予測、2017年発表。) 同時に、イランの政治は、主要な支持基盤が若者であったモハマド・ハタミが大統領に選出されるという大きな変化を経験した。

 ちなみに、ハタミ政権は、頻繁に政治危機を迎えるイラン政治の中でも、最も紛争が多かった時期のイランの政権の1つであることがわかっている。2004年、The New York Times誌は次のように述べた

 ハタミ大統領は自身の在任期間中、「9日ごとに何らかの危機が発生した」ため、何かを成し遂げるのが難しかった、と不満を訴えたのであった。

 これは革命にはつながらなかったが、2009年を含んで、市民の不安は彼の政治生命に何度も繰り返し影響を与えた。世界銀行の人口推計と予測では、イランにおける青少年のシェアは2050年には11%に低下し、将来的な政治腐敗の存在下での政治的リスクを危惧する層の減少が予測されている。

◆その他の要因
 イランのようなケースを使い、私たちは政治腐敗や若者がどのように危機に陥るのかを理解しようとした。

 また、私たちは、不平等、経済成長、投資率、インフレ、政府支出、軍事費、石油賃貸料、貿易、教育、出産率、民主化などの紛争の要因も考慮した。

 地理学、地政学的状況、文化遺産、歴史遺産、宗教など、調査した国々の具体的な違いも勘案した。外的な圧力による国際的な注目と介入も考慮した。さらに、2008年の世界的金融危機や2003年のイラク戦争などの出来事を加味した。

main

表1は、さまざまなレベルで隆起する青少年層における内部政情の安定性に対する腐敗の限界効果を示している。Mohammad Reza Farzanegan

main

図1は、さまざまなレベルで隆起する青少年層における内部政情の安定性に対する腐敗の限界効果を示している。Mohammad Reza Farzanegan

 私たちの考察の主な成果に基づいて、表1と図1は、さまざまなレベルで隆起する青少年層における内部政情の安定性に対する腐敗の平均的な限界効果を示している。隆起する青少年層が平均して成人の人口の平均20%を超えると、高いレベルの政治的腐敗とも相まって、上述の他の要因も考慮に入れた場合に特定の国の政治体制が著しく不安定になることを私たちは90%確信している。そして、隆起する青少年層が30%を超えるであろうことについて99%の確信をもっている。

 私たちの導いた結果は、内部紛争のリスクとそれが起きる可能性のある時期を説明するのに役立つはずだ。この結果を用いれば、社会の人口構造と政治的な不安定性のリスクを考慮した上で、政治腐敗を防止するための予算をより適切に配分するよう政策立案者や国際機関を指導することができるようになるだろう。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by ka28310 via Conyac
データ:Farzanegan, M.R., Witthuhn, S., (2016, in press). Corruption and Political Stability: Does the Youth Bulge Matter? European Journal of Political Economy. https://doi.org/10.1016/j.ejpoleco.2016.12.007

The Conversation

Text by The Conversation