魔女狩りが現代の世界について私たちに教えてくれること

著:David Frankfurterボストン大学 Professor of Religion)

 ポピュリストに訴えかけようとする政治リーダーたちが、移民、テロリストその他の問題で一般大衆の恐怖心を煽る現象は、何も今に始まったことではない。

 ドナルド・トランプ大統領は、移民やイスラム人がもたらす恐怖に働きかけている。イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相は、周辺にある脅威をたえず知らしめることで自国民の恐怖心を煽っている。そしてアフリカの多くの政治リーダーたちは、悪魔崇拝魔術が持つ恐怖を持ち出している。以前にも、アメリカやヨーロッパのリーダーたちは共産党やユダヤ人がもたらす脅威を囃し立てていた

 こうしてみると、政治のリーダーが一般大衆の不安を煽るのに、いかに恐怖心を活用してきたかがわかる。しかしこの見方は、恐怖や悪魔の力の方に焦点を当てている。私が見るところ、別の側面もある。つまり実のところ、恐怖心の活用は、リーダーのカリスマ形成につながっている可能性があるのだ。リーダーは恐怖の程度を認識し、恐怖への対処方法も知っている存在になるからである。

 私のこれまでの研究によると、リーダーシップ形成に向けたこのプロセスは、ごく小さな範囲でも起こり得る。

 拙著『Evil Incarnate』の中で、私はヨーロッパおよびアフリカに存在した魔女発見者から、現代の、いわゆる悪魔崇拝虐待の専門家に至るまで歴史を紐解き、悪魔を認識できるという彼らの主張とカリスマ性の関係について分析した。

◆カリスマの働き
 よく言われることとして、ある人物が多くの人を魅了させる内的な力を有していそうなとき、その人はカリスマ性のある人だと言われる。

 社会科学者は長らく、この表面上の内的な力を、社交的な相互作用がもたらした産物とみなしてきた。つまりこの解釈によると、カリスマ性は、リーダーと大衆の間の相互作用により生まれる。大衆は自らの熱狂、欲求、恐怖をリーダーにアピールする。リーダーの方では、ジェスチャー、レトリック、自身の才能の中にある信念、危険や希望についての独特なメッセージを通して、こうした大衆の感情を写し出す。

 サハラ以南のアフリカでは、20世紀を通じてカリスマ的な魔女発見人が、悪魔を退治すると約束しながら村々を捜索していた。アフリカとヨーロッパでは、魔女およびその襲撃方法は長らく、コミュニティにとって馴染みのあるものだった。多くの文化圏の歴史を通じて、不運なことがあったとき、社会の一部を構成していながらも邪悪な存在だった魔女の仕業にするのはごく普通に行われた。そのため、不運が起きるのは、抽象的な神聖や自然現象よりは、人間の悪意の産物だとみられたのだ。

 私がみるところ、魔女発見人は、魔女が持つ「基本的な」イメージに4つの要素を新たに加えた。
・まず、魔女の脅威が迫っていることを明らかにした。
・次に、村を破壊し、子どもを苦しませるために魔女が使っている新しい方法が何かを示した。
・また、魔女に問いかけをして、これを取り除く新たな方法を提示した。
・そして最も重要なこととして、魔女をコミュニティから追放するために、その存在を認識する独自の能力と新たな技法を有していると宣言した。

 この魔女発見人は、魔女が行動した物証を人々に示すことができたのだろう。それはグロテスクな人形であったり、埋められたヒョウタンなどであったりする。この発見人(たいていは男性)は、告発された魔女に不利になるような証言を他人にさせることもできた。時にはわが身に受けた脅威や攻撃の内容を詳しく話すことで、魔女にあからさま敵意を持つ標的としての立場演じることもあっただろう。

 必要不可欠な要素として、脅迫的な悪魔が持つ危機意識の高まりを超越した魔女発見人の力が、カリスマ性を形成した。人々は、悪魔を目にすることができて、それを地上から追い払える能力を頼りに彼の下へやって来た。浄められてない村は被害を受けそうな気分が漂い、邪悪な力がはびこり、隣人同士で疑い合うようになった。他方、魔女発見人が取り調べをした村は、安心でき、穏やかな気分となって、道沿いから悪魔の形跡が取り除かれたように感じられた。

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アラスカ先住民の呪術師/ U.S. National Archives and Records Administration

魔女狩り、悪魔のカルト
 もちろん、魔女発見人が恐怖心をうまく呼び起こすためには、歴史的、社会的な面で、彼の意に沿うような状況が数多く存在しなくてはいけなかった。それは疫病などの大惨事、世界を形成する新たな体制(アフリカの植民地主義など)、政治的な緊張などであっただろう。これらはすべて、邪悪な人々の認識を有用なこと、さらには必要なことにしたのだ。また、彼は専門的な能力があるところを披露し、現場にある恐怖を説得力のある方法でうまく伝える能力がなくてはならなかった。

 実際、ヨーロッパでもアフリカでも、権威があるという主張が恐怖心を煽るのに失敗、もしくは魔女発見人の主張する方法をうまく正当化できなかった実例には事欠かない。

 例えば15世紀のヨーロッパにおいて、フランシスコ会修道士のベルナルディーノは、ローマで恐ろしい魔女の火あぶりを扇動することもできたが、魔女の危険な行為をシエナの人々にうまく説得できなかった

 しかし、このパターンが同時発生的に起き、突然のパニックとなって残虐行為につながった時もある。歴史家のミリ・ルービン氏ロナルド・シア氏が書いているように、中世やルネッサンス期の北ヨーロッパにいたカリスマ的な悪魔発見人(キリスト教の聖職者や修道士がほとんど)は、現地のユダヤ人を標的にして、盗まれた聖体(ユーカリスト)やキリスト教徒の子どもの血を渇望したなどと偽の罪状をでっち上げた

 こうしたカリスマ的リーダーは、ユダヤ人住居を組織的に捜索して、傷みのはげしい聖体や子どもの骨の徴候を見つけようとした。そうした捜索はすぐに大虐殺につながる。捜索に参加した人々は、目の前に悪魔の陰謀が現れるのを感じるからだ。

 現代の西洋社会においても、規模の大小を問わず、こうした行動パターンに影響されることがないとは決して言えない。1980年代後半および1990年代初めの米国と英国において、子どもや成人を性的に虐待していたとみられる邪悪なカルト集団の間でパニックに陥ることがあった。

 こうした場合、多くの精神科医、児童保護関係者、警官、教会の聖職者たちは、デイケアセンター内や精神病患者の間に悪がはびこるのを発見できるエキスパートとして振る舞っていた。多くの人々は、悪の脅威が迫っていると信じるようになった。しかし、そうした悪魔的なカルトが存在したという証拠が注目を浴びることはなかった

◆文化の不安に対するニーズ
 私たちは多くの形で、ポピュリストに迎合する現代のリーダーたちの中にカリスマと悪の発見という、これまでの話と類似した相互作用を見ることができる。

 例えばドナルド・トランプ大統領は選挙期間中、「過激なイスラムのテロ」という言葉を口に出すことのできるのは自分だけだと主張していたが、これにより聴衆の間では、「テロの脅威」を呼びかけられるのはトランプ大統領だけだと信じるようになった。フィリピンでは、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領がテロリストの肝臓を食すると公の場で脅しをかけた。私が思うに、こうしたリーダーたちは、世の中にはもっと大きな脅威があることを伝えようとしているだけでなく、その巨大な脅威の本質を理解しているのはリーダーである自分だけだと信じ込ませようとしているのだ。当選後、トランプ大統領がイスラム人の入国を何度か制限しようとしたが、これにより支持者は自分たちが理解してもらえたと思い、安心感を与えられた

 魔女発見人に関する私の研究成果が示しているように、不安に襲われている文化は自ずと、辺り一帯に蔓延し、破壊的な力を持つ悪を発見し、悪を取り除けると思えるリーダーに肩入れする可能性がある。おそらく、現代世界で新たな「魔女」になったのはテロリストである。テロリストは、悪が巨大な形で具現化したもので、私たちのコミュニティに独特の脅威を与え、正常な公正の概念を貶める存在だ。

 この現代、私たちのリーダーはカリスマ的なリーダーシップを発揮しているだろうか?

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by Conyac
Photo Joe Mabel / Wikimedia Commons
The Conversation

Text by The Conversation