北朝鮮に“新たなアプローチ”、米国務長官歴訪の意味とは 「軍事行動へ」という憶測も

 アメリカのティラーソン国務長官が来日し、安倍首相、岸田外相と北朝鮮問題について話し合った。長官は、北朝鮮の非核化のためには、アメリカはこれまでとは違うアプローチを取るべきと発言し、日本を防衛することも再確認した。今や米軍施設を抱える日本が北朝鮮の標的となる可能性は非常に高いとされており、北朝鮮の脅威は、アメリカとその同盟国にとって最も差し迫った問題となりつつある。

◆この20年間は無駄だった。アメリカが対北政策を変更か?
 岸田外相とともに出席した会見で、ティラーソン長官は「北朝鮮の非核化のための過去20年間の外交やその他の努力は失敗に終わった」と述べ、今後アメリカは「違うアプローチ」を取るべきだと発言した。CNNによれば、1995年から2008年の間に食糧やエネルギー支援のために、アメリカは北朝鮮に13億5000万ドル(約1530億円)送ったとされる。それにもかかわらず、北朝鮮は核開発を止めず、ミサイル実験を続けたわけで、長官のコメントは未来における明確なビジョンがなかった過去をかいつまんで表したものだと、延世大学のジョン・デラリー教授は述べている。

 ティラーソン長官は、日本の後、韓国、中国を訪問する予定だが、この歴訪の目的を「新たなアプローチについての意見交換」としている。アプローチの詳細には言及されなかったため、多くのメディアがその中身を推測している。AP通信は、北朝鮮が米本土を狙える核弾頭を搭載したミサイルを開発する前に、アメリカがこれまでの政権が避けてきた軍事行動についに出るのではないか、という憶測を紹介している。ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、アメリカは、先制攻撃や北朝鮮との新たな協議を含む可能性のある、あらゆる選択肢を検討中だと報じている。

◆日本は間違いなく北の攻撃対象
 北朝鮮は今月初め、4発のミサイルを同時発射し、その内3発は日本の排他的経済水域内に落下した。ミサイル発射は「有事の際に在日米軍基地を攻撃するため」のテストだったと北朝鮮は言及している。北朝鮮分析サイトの『38ノース』は、このミサイル発射は、朝鮮半島での有事の際に、同盟国の計画において日本の港や飛行場が果たす役目を北朝鮮が理解しており、計画が実行に移されれば日本は戦場となるというメッセージだと述べている。

 マティス国防長官、トランプ大統領に続いて、ティラーソン長官が同盟国のサポートを約束し、日本の防衛に責任を負うことを再確認した。米ヘリテージ財団の北東アジア上席研究員のブルース・クリングナー氏は、これによって日韓はいまのところ安心感を得ていると述べつつも、「(両国は)まるで絶えず安心を必要とし、常に神経質になっている臆病な小型犬のようだ」と述べ、北朝鮮の脅威に対し、アメリカの動きに一喜一憂せざるを得ない同盟国の実情を表現している(NYT)。

◆日本政府は心配も、世論の関心は薄い
 北朝鮮の脅威を強く認識している日本政府は、ミサイル防衛のアップグレードを検討し、一部政治家からは先制攻撃ができる能力を持つべきだという意見まででていることをNYTは伝える。ティラーソン長官との会見で、岸田外相は先制攻撃について米テレビ局の特派員からの質問を受けたが、質問が理解できなかったと述べて返答を避けており、北朝鮮問題は政府にとって非常にセンシティブな問題ともなっている。

 しかし、1998年のテポドン発射実験の際には大きく反応したマスコミや世論は、その後の度重なるミサイル発射ですっかり慣れてしまったのか、関心は低いようだ。NYTは、トランプ政権ナンバー2のティラーソン長官来日よりも、日本のメディアは米利上げやオランダの総選挙の結果に興味があったようだと述べている。

Text by 山川 真智子