受動喫煙対策遅れる日本に海外はうんざり? 財務省とJTの関係、安いタバコ価格に厳しい目

 タバコの煙は吸わない人の健康も害するとし、レストランやバーを含む公共の場での喫煙を禁じる国は、いまや世界でほぼ50ヶ国に上る。日本は世界で最も受動喫煙対策が遅れた先進国と言われており、2020年の東京五輪を前に政府も対策に乗りだした。しかし海外メディアは、「屋内での全面禁煙」に対する抵抗は強力だとし、政府が3月に法案提出予定の「健康増進法改正案」(いわゆる「受動喫煙防止法」)も妥協の産物になるのではと見ている。

◆日本の受動喫煙対策、世界最低レベルと認定
 現行の健康増進法では、多数が利用する施設の管理者は、受動喫煙防止に必要な措置を講ずるよう「努めなければならない」とされている。この法律により、多くの施設では喫煙者と非喫煙者を分ける分煙を採用し、禁煙とするバーおよびレストランは10%にも満たないとドイチェ・ヴェレ(DW)は指摘する。日本政府の調査では、飲食店での受動喫煙の割合は40%に上るとされており、世界保健機構(WHO)は、受動喫煙を防止する日本の現状の努力は、最低ランクと評価している(フィナンシャル・タイムズ紙、以下FT)。

 WHOと国際オリンピック委員会(IOC)は、タバコのないオリンピックを目指すことで2005年に合意しており、それ以降開催都市では、レストランを含む屋内施設では全面禁煙が慣例となっている。2020年の東京五輪を控え、政府も受動喫煙対策に取り組んでいるが、1日に厚労省が発表した健康増進法改正案の骨子では、飲食店は原則禁煙としながらも、30平方メートル以下のバーなどに限って喫煙を認めるとしている。FTはこのサイズの飲み屋や飲食店は日本に無数にあるだろうと指摘。ウェブ誌『クオーツ』も、会社帰りのサラリーマンでにぎわう狭い焼き鳥屋や居酒屋なども含まれてしまうとして、中途半端な案に疑問を呈している。

◆厚労省、全面禁煙案をギブアップ。財務省の圧力?
 FTは、東京を含む231の自治体が受動喫煙対策として路上喫煙を禁止しているが、飲食店やカフェのテラス席に座る喫煙者が、屋外でタバコを吸えないために、屋内に入って喫煙せざるを得ないという異常事態が生まれていると指摘する。そしてこの事態をうまく利用し、「日本の喫煙者は外で自由に吸えないのだから、海外の全面禁煙の成功と比較するのはフェアではない」として「分煙」を推奨するのが世界第4位のセールスを誇るJTだ、と名指ししている。

 全面禁煙については、売り上げへの影響を恐れる外食産業からの抵抗も強いが、もともと全面禁煙に賛成していた厚労省が例外を設けたのは、財務省の影響があると海外メディアは報じている。クオーツは、禁煙が広がらない理由の一つとして、JT株式の33%強を所有する政府の既得権益を上げている。国は多額の税収を喫煙者から得ており、結果として財務省とJTの密接な関係が生まれ、天下りも多いと批判している。

 FTは、麻生財務相が喫煙と肺がんの因果関係について国会で疑問を呈したことを紹介。日本のタバコ・ロビー団体も同様の考えを持っているとし、彼らの意見をサポートする政治家は自民党内に100人はいると述べる。DWのインタビューを受けた日本禁煙学会の宮崎恭一理事も、政府は禁煙を進めたい厚労省とタバコの害を認めない財務省の食い違いに目をつむっているとし、結局バトルを制するのは各省に金を配る力を持つ財務省だと述べている。

◆タバコ安すぎ。日本は喫煙者のパラダイス?
 実際のところ、日本の喫煙人口は年々減っており、2016年のJT全国喫煙者率調査では喫煙率は19.3%と最低になっている。特に、男性は29.7%となり、1965年の調査開始以降初めて30%を割った。もっとも、日本禁煙学会の宮崎理事は、喫煙率は横ばい状態で期待したほど低下していないと指摘。その理由の一つにタバコの価格を上げている(DW)。

 クオーツによれば、タバコの価格は、アメリカ、イギリスでは1箱12~14ドル(約1350~1550円)で、210~460円程度で買える日本は激安だという。オーストラリアでは、現在19ドル(約2150円)だが、2020年には30ドル(約3400円)まで引き上げられる可能性もあるという。

 受動喫煙対策だけでなく、価格の面でも世界に後れを取る日本。税収も大切だが、国民の健康への配慮もお願いしたい。

Text by 山川 真智子