靖国参拝のたびに中韓の反発を報じる海外メディア 欠けている視点とは?

 靖国神社では17日から20日にかけて、秋の例大祭が執り行われた。安倍首相は17日に供え物の「真榊(まさかき)」を奉納したが、期間中、参拝はしなかった。一部メディアは、安倍首相が参拝をしなかったことに注目して報じた。

◆韓国、中国政府の反応は
 首相は参拝しなかったが、内閣からは、まず18日に岩城光英法相、高市早苗総務相が参拝した。

 韓国、中国政府はこれに関して、首相の真榊奉納と合わせ、非難する声明を行っている。韓国外交部(外務省)報道官は18日、これらの行為は「過去の日本の植民侵奪と侵略戦争を美化しようとする行為と何ら違いがない」、「韓日中首脳会議の開催等を通して韓日関係を改善しようとするわれわれの努力に反するもの」と批判した(朝鮮日報)。

 中国外交部報道官は19日、「靖国神社には侵略戦争に直接的な責任を負うA級戦犯が祀られている。わが国は一貫して、また断固として、日本の政治家のまちがった行動(参拝)に反対している。中国は日本に、侵略の歴史を真剣に直視し、深く反省すること、軍国主義と決別すること、実際の行動をもってアジアの近隣国と国際社会の信頼を回復することを強く促す」と語った。中国の批判としては型通りのものだ。

 どちらも、首相が参拝していないということもあってか、批判のトーンはそれほど高くないようだ。

 また20日には、「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」の議員71人が参拝したほか、加藤勝信一億総活躍担当相が参拝した。こちらに関しては、韓・中政府の公式の反応を伝える報道はないようだ。国会議員の参拝はあまり関心を引かなかったようである。

◆もしも首相が参拝していたら、話は大きく違っていただろう
 例大祭の最終日の20日、議員らは参拝したが、首相は結局参拝しなかった。この点に注目して報じたメディアの1つはインターナショナル・ニューヨーク・タイムズ紙(INYT)である。首相は、中国と韓国の(参拝に対する)敏感さに譲歩したものとみられる、と伝えた。もしも安倍首相が参拝していたら、来月韓国ソウルで予定されている日中韓首脳会談(の開催)は危険にさらされていたことだろう、と指摘している。

 それと対照するかのように、INYTは、真榊奉納や閣僚の参拝に対しては中韓の非難があり、20日には議員らが参拝したにもかかわらず、あらゆる兆候からして、ソウルでの首脳会談は予定どおり進行しそうだ、と語っている。首相が参拝するか否かで、大きな違いがあることがほのめかされているようだ。

◆外交上の影響、すなわち中韓の反発に焦点が当たることが多い
 ウェブ誌ディプロマットも同じ点に注目したが、首相が、中韓との和解が進んでいる時勢を考慮して、参拝しないという選択をした、という見方を前面に押し出している。首相は靖国参拝について、経験から教訓を学んだようだ、と語っている。

 ディプロマットの記事は、靖国参拝について、外交上与える影響面にだけ着目している。つまり極言すれば、中韓の反発を招くものだというふうにしか認識していない。反発を受けながらも、なぜ参拝を行うのか、という視点が欠落している。メディアの趣旨上、この記事では特に目立っているが、こういった一面性は他メディアにも見られるものだ。

 ディプロマットは、首相が参拝をしなかったことについて、少しの外交的失策でも日中韓の壊れやすい外交的和解が駄目になりかねないということを、首相が切実に承知しているのをはっきり示している、と語る。上述の見方からすれば、首相が参拝したとしても、それは単に「外交的失策」でしかないのだろう。また東アジアでは、歴史問題が国際外交の範囲を制約し続けているが、靖国問題はその東アジアでの外交上の論争のお決まりのものである、と記事は語る。

 外交問題として靖国神社を眺めるうち、記事の筆者は中韓の見方を内在化していったようだ。20日の議員らの参拝について、その光景は、中韓政府内の観察者にとっては安心させるサインではなかった、と語る。その後で、議員には自民党員が多かったことを踏まえて、日本の国会で自民党が支配的立場にあることを考えると、この参拝の光景はつまるところ、日本の政治中枢では幅広く、歴史への反省が欠けていることを象徴するものだ、と断定している。もしかすると中韓政府の見方を代弁したものかもしれないが、地の文に書かれている。いずれにしろ、靖国参拝すなわち歴史への無反省だという中韓式の見方が、無批判に提示されている。

 対して、例えばAFPでは、岩城法相がどのような考えで参拝を行ったのか、本人の弁が伝えられている。こうした発言が、海外メディアの読者にただちに理解されるとは限らないが、こういった報道が増えていくのが望ましい方向ではないだろうか。

◆負の側面しかないかのように伝えられてしまう
 メディアにおいて、中韓の反応に焦点を置くうち、靖国神社という存在自体が問題含みであるかのような見方が成立してしまうということがある。

 INYTは、靖国神社は近隣国からは、日本の過去の軍国主義時代を美化するものとみなされている、と伝える。また中韓だけでなく、国内の多くのリベラル派からも反感を持たれている、としている。その説明として、何百万人もの一般兵だけでなく、戦争犯罪者として連合国によって処刑された第2次世界大戦当時の指導者たちも祀られている、と語る。また併設の「遊就館」は修正主義者の歴史観を誇示している、と語る。

 INYTは、靖国神社は多数の一般国民だけでなく保守政治家も、毎年、何度かある祭と、戦争関連の記念日に引きつけている、とも語る。しかし、それらの人々がなぜ引きつけられているのかについては、全く説明していない。

◆首相と政府高官の靖国参拝は挑発的行動?
 最後に、中国は靖国神社をどう見ているかを、中国国営新華社通信の記事から探ってみよう。

 新華社は、中国と韓国は長年にわたり、日本の首相と政府高官の靖国参拝を挑発的行動とみなしている、と語る。戦中日本の残虐行為は、中韓にとてつもなく大きな苦痛をもたらしたが、それについて責任がある犯罪者が祀られているからだ、と語っている。そして、14人のA級戦犯が祀られていることを伝えている。

 その後で新華社は、しかしながら、靖国神社を崇拝する者たちは、戦中日本の残虐行為の被害者となった国々の感情を思いやることなく、そこに祀られている250万人の日本人戦没者を国の英霊とみなしている、と語る。

 中国政府の公式見解では、靖国神社にA級戦犯が合祀されていることが問題視されているわけだが、この新華社の記事では、全ての戦没者を崇敬することが問題とされているようにも取れる。だとすれば、靖国神社という存在自体が問題だという話にもなってしまうのではないだろうか。A級戦犯も、その他の御霊も合祀されて一体化している、というのが靖国神社の立場なので、新華社の論の進め方も筋は通っているが。

Text by 田所秀徳