日本が米印海上訓練の正式メンバーに?印紙報道 「重大な転換点」と言われる理由とは

 アメリカ、インド両海軍が主催する海上共同訓練「マラバール」が14日始まった。日本の海上自衛隊も、戦術技量の向上と米印海軍との連携の強化を目的として参加し、護衛艦「ふゆづき」と人員約200名を派遣している。日本の参加に関して2つのことが注目を集めている。1つは、今年のマラバールがインド洋で行われるものだということ。もう1つは、日本が今後、招待国としてではなく、固定メンバーとしてマラバールに参加することで合意した、と報じられた点だ。どちらも、印メディアなどから「ターニングポイント」と評されている。

◆中国の抗議のため、インド洋でのマラバールには日本は招待されてこなかった
 マラバールは1992年に始まった。インドの核実験が原因で1998年から中断していたが、2002年に再開、その後は毎年行われている。基本的には米印の2国で行われるものだが、他国が招待国としてゲスト参加することがある。日本も過去2007年、09年、14年のマラバールに参加している。

 2007年に2度あったマラバールのうち、インド洋ベンガル湾で行われた2回目は、日本、オーストラリア、シンガポールが参加し、5ヶ国で行われたが、中国がこれに対して強く反発した。ロイターによると、中国国内ではこの演習について、ヨーロッパのNATOのようなアメリカ主導の安全保障グループ作りとみなす者もいて動揺が引き起こされたという。

 印英字紙ビジネス・スタンダード(BS)のウェブサイトによると、その後、中国政府は外交的攻撃を行ったという。米国営放送局ボイス・オブ・アメリカ(VOA)は、インド政府は中国の圧力に屈して、その後、マラバールがインド洋で行われる際には、印米の2国演習に限定した、と伝えている。BSは、マラバールは1年おきに西太平洋で実施される、と伝えている(例外あり)。

 けれども、今年のマラバールは2007年と同じくインド洋ベンガル湾で行われている。日本がインド洋でのマラバールに参加したのは8年ぶりだ。ロイターは、中国をいら立たせそうな海上軍事演習、と伝えている。VOAは、戦略専門家らが、今年の日本の参加を、日米印3国間の安保協力の強化にとって重大なターニングポイントとみなしている、と伝えた。また専門家らは、インドのアメリカとその同盟国への接近に対して中国が過敏に反応するという従来の懸念を、モディ首相が振り払いつつあることの表れともみなしているそうだ。

◆日本がマラバールの正式メンバーに? 2国合同から3国合同演習に変わるのか
 さらに、BSは、印国防省筋の情報として、今後、日本がマラバールの正式メンバーとなる、と伝えた。まもなく発表されるという。これによりマラバールは、今後は米印2国でなく、日米印3国の合同演習と称されるようになる、としている。インド政府にとって大きな転換、とBSは語っている。VOAは、これによりマラバールは3国による力の誇示の機会となる、とした。専門家らは、「非常に意義深い」ものになると語っていると伝えた。ロイターは、中国を不安にさせそうな動きだとした。米防衛専門紙ディフェンス・ニュースは、インドの防衛専門家Nitin Mehta氏の、「日本がマラバールに固定メンバーとして加わることは、地域におけるインド、アメリカ、日本の海軍間の関係におけるターニングポイントとなる」という言葉を伝えている。

 日本が固定メンバーとしてマラバールに継続的に参加するようになることについては、昨年9月のモディ首相訪日時の日印首脳会談で両首脳が「重視した」、と共同宣言で伝えられている。

 中国は日本がマラバールの固定メンバーになることを警戒していたようだ。10日付の印英字紙ヒンズーは、日本が継続的な参加国となるかを判断するために、中国はやがて行われるマラバールを注意深く監視している、と伝えた。また国営新華社通信が、米政府が「印米のマラバール海上軍事演習を、日本を継続的な参加国として含む3国合同の枠組みに変えることを追求」しているとしたことを引用している。

 9月にアメリカで行われた日米印外相の初の3者会合のために、中国の懸念が強まった、とオブザーバーらが指摘していると同紙は伝える。その会合の共同メディアノートでは、日米印3ヶ国の外相は,インド太平洋地域における3ヶ国の利益の更なる一致を強調した、とされている。また、日米印の外相は、南シナ海におけるものを含め、国際法及び紛争の平和的解決、航行及び上空飛行の自由、ならびに阻害されない法に従った通商活動の重要性も強調した、とされている。ヒンズー紙はこれらを中国への遠回しな言及としている。

 中国が警戒するのも無理はない。ディフェンス・ニュースは、マラバール2015の最重要点は敵潜水艦、水上艦、航空機の破壊のシナリオの演習となる、とインド海軍将校が語ったことを伝えている。BSは、「人民解放軍」という名前は演習で用いられないだろうが、何を訓練しているかについて、疑問の余地はほとんどないだろう、と語っている。

 ヒンズー紙によると、中国は、日本がマラバール2015のような海上軍事演習を通じて、自国周辺以外にも活動範囲を広げていくことについても警戒しているようだ。また同紙によると、中国政府は、インドが日本、オーストラリア、韓国と歩調を合わせて、アメリカが主導する中国の封じ込め政策の強化に乗り出さないようにすることも望んでいるという。

◆インドにとってはどんな意味が?
 インドにとっては、日本の参加はどういう意味を持つのだろうか。ロイターによると、モディ首相は、より強固な安保政策をほのめかしており、日米との戦略関係の強化を求めているという。中国との国境問題も背景にあるようだ。

 インド近海の現今の状況もインドにとっては気がかりだろう。VOAは、インド政府が日米に戦略的に接近しているのは、インド近海の新たな安全保障の実態に促されたものだと専門家らが語っている、と伝えた。中国はスリランカとパキスタンの港湾建設を援助し、島しょ国モルディブにアプローチを掛けている。インドは近年、それを警戒して観察している、とVOAは語る。VOAは、中国がインド洋への進出を拡大しようとしていることへの、インド政府の懸念について言及している。

 またロイターは、インドは南シナ海の緊張からは距離を置いているが、同地域での航行の自由の要請に関してはアメリカを支持している、と伝える。

 けれどもインドは、やはりまだ米中の間でバランスを取り続けているようだ。ヒンズー紙は、インド政府当局者が、インドは米政府に傾斜しているという見方にもかかわらず、インド政府は多面外交を推進していると語ったと伝えた。

 さらにVOAは、インドは、マラバールを多国間演習に変えることへの昔からの抑制を完全に振り払っていない、と語る。そして、オーストラリアが今年の演習に参加を求めたにもかかわらず、含まれなかった(招待されなかった)、と伝えている。

Text by 田所秀徳