安倍談話を英紙が評価 “中国、今後は反日を自己正当化に使えない”

 14日に発表された安倍談話には、一部の予想に反し、「植民地支配」「侵略」「痛切な反省」「おわび」といった村山談話と小泉談話のキーワードが全て盛り込まれた。一方で、「私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」とする独自の考えも示された。

 その安倍談話に対する各国メディアの評価が出揃ったようだ。日本と戦争を戦った米英、同じ敗戦国のドイツ、日本の「侵略」を受けた中国、韓国、シンガポールの各メディアから、代表的な論調を紹介する。

◆WSJは談話の内容は評価も現実が追い付いていないと批判
 米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、「安倍氏の真摯とは言えない謝罪 戦争犯罪のごまかしなぜ今なお問題か」と題し、やや批判的な社説を掲載している。同社説は、「村山富市首相(1995年)と小泉純一郎首相(2005年)が使ったのと同じ正式な言葉である『owabi(お詫び)』を使って過去の謝罪を繰り返したのは、一安心だ」と、談話の内容そのものについては、概ね無難だったと評価している。しかし、日本社会の現状や安倍首相が実際に取っている行動は、その内容にそぐわないと見ているようだ。

 社説は、「学校の教科書が戦時中の残虐行為をごまかして記述している中、米国人を含め、分別ある外国人が、日本の謝罪を真摯(しんし)だと称賛するのは難しい」と記す。また、「安倍氏は『日本会議(国会議員懇談会)』の『特別顧問』だ。この会議は日本の帝国建設が西側の植民地主義を放逐しようとしたとして正当化されると信じている。安倍内閣の半数以上も同会議のメンバーだ」と指摘。安倍首相の行動については、2013年の靖国参拝も批判している。一方でWSJは、「一部の日本人は、どんなに謝罪しても、胸中にナショナリスト的な斧を隠し持っている中国や韓国の批判者たちを満足させないだろうと不満だ。その不満は正当でもある」と日本の一部の国民感情への理解を示してもいる。

 一方、戦場の一つとなったシンガポールの『StraitsTimes』は社説で、談話の内容に具体的に批判を加えるべき点はないが、「何かが足らなかった」という見方を示している。「安倍氏がもっとはっきりとした言葉を述べていれば、次の半世紀の日本の姿を世界が想像することが、もっと簡単にできたかも知れない」とし、「近隣諸国との歴史問題を穏やかに解決するステップを固めるべきだった」と記している。

◆独メディアは「村山談話の精神までは受け継いでいない」
 大方の予想通り、中国と韓国のメディアは軒並み謝罪と反省が不十分だったと批判的だ。中国共産党傘下の英字紙『グローバル・タイムズ』は、同じ敗戦国であるドイツとイタリアが戦後、反省の意を明確にしたことにより「歴史的責任を振り払った」一方、日本は「次世代に続くトラブルを抱えたままだ」と批判している。

 そのドイツを代表するメディア、『ドイチェ・ヴェレ』(DW)も、中韓にとっては安倍談話の「謝罪と反省」は不十分だったと見ているようだ。同メディアは、談話を分析・解説する記事の中で、「安倍氏は言葉の上では村山談話を継承したかもしれない。しかし、精神は間違いなく受け継いではいない」とするテンプル大学ジャパンキャンパスの日本研究科家、ジェームズ・ブラウン氏の見解を強調している。また、安倍談話はドイツのリーダーたちがしてきたように、「戦時中の軍部が行った間違いを明確化することはできなかった」という米シンクタンクの日本人アナリストの見方も取り上げている。

 一方、英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、中韓メディアの反応は「これまでのスタンダードに比べればマイルドだった」とし、「北京とソウルは共に、東京とより冷静な関係を望んでいる」と見ている。同紙の指摘を裏付けるように、中国紙『グローバル・タイムズ』の社説は、安倍談話自体は「日中関係を悪化させる引き金にはならない」とするなど、批判的ではあるもののいつもの攻撃的なトーンは鳴りを潜めている。『グローバル・タイムズ』はさらに、日本は安倍談話の作成にあたって「賢く立ちまわった」「世界は安倍のショーに引きずられた」とも記している。

◆朴大統領も批判を抑え気味と韓国紙
 韓国・朝鮮日報の社説も、比較的「マイルド」だったかも知れない。同紙は「中国には低姿勢、韓国には冷淡」という言い回しながら、内容の一部については渋々評価しているようだ。たとえば、日本が「進むべき針路を誤り、戦争への道を進んでいった」結果、「中国、東南アジア、太平洋の島々など戦場となった地域では、戦闘のみならず、食糧難などにより、数多くの無辜(むこ)の民が苦しみ、犠牲となった」というフレーズを取り上げ、村山談話の「遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んだ」という一節に比べれば「具体的だとの評価もある」と記している。ただし、同紙は、日本と韓国の対立点は「植民地支配」の解釈を巡り積み残されたままだとしている。

 中央日報は、安倍談話の翌日に発表された韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の「光復(解放)70周年8・15慶祝辞」の「未来型の祝辞」と比較して、安倍談話は「過去型」だったという見方の記事を掲載している。同紙は、「私たちとしては残念な部分が少なくないのが事実だ。歴史は分けるものでもなく、生き証人の証言によって生きている」という朴大統領の演説の一部分を取り上げ、「ちょうど2文だけで(安倍談話を)批判した」と記す。そして、「安倍首相が国内向けに強調した『戦後世代に謝罪の宿命を負わせてはいけない』などの内容を問題にせず、関係改善用の言及に重きを置いた」と分析している。

 FTは、安倍談話が、中国と韓国の批判をある程度抑えられた点を社説で評価している。同紙は、特に中国共産党は「反日」を「自己正当化」の道具に用いていると見る。そして、安倍談話が中韓が求める「侵略」などのキーワードを巧みに散りばめたことにより、日本に対する「憎しみの炎」を利用して、チベットなどに対する「自らの血塗られた歴史」から目を逸らさせようという戦略が使いにくくなったと分析する。同紙は「歴史の教訓を忘れてはならない。しかし、いつかは過去に線を引くべき時が来る。アジアの将来の平和を考えれば、今がその時だ」と結んでいる。

Text by 内村 浩介