質の高さは「AIIBとは対照」?日本のメコン諸国支援 「中国との影響力争い」と海外

 日本と東南アジアのメコン川流域5ヶ国による「日本・メコン地域諸国首脳会議」が4日、都内で開かれ、今後3年間の日・メコン協力の方針「新東京戦略2015」が採択された。この中で、日本が2016年度からの3年間で、これまでより大幅増額となる7500億円規模の政府開発援助(ODA)を実施することが明記された。今後の成長が見込まれるメコン地域は、日本からのインフラ輸出や、日本企業の進出先として有望視されている。日本はこの地域への影響力を中国と競い合っている、というのが大方の海外メディアの見方だ。

◆成長が期待されるメコン5ヶ国は日本経済にとって重要
 会議には、安倍首相と、カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナムの各首脳が参加した。会議は日本と各国の関係強化、地域内の格差是正、地域の持続的発展を目指すもので、2009年から毎年行われており、今年で7回目だ。3年ごとに日・メコン協力の指針となる合意文書が採択されており、その際、日本は、その後3年間のODA供与規模を発表している。2009年は5000億円以上、2012年は6000億円だった。これらのODAにより、各国でインフラ整備が行われている。

 日本からのインフラ輸出にとって、この地域が有望な場所だということに、ロイター、AFPは着目している。ロイターはこれらの国は皆、潜在成長力が高いと伝える。AFPは、安倍首相が会議後の共同記者発表で、「膨大なインフラ需要を有するメコンは、わが国にとって最重点地域の一つ」「日本は質と量の両面で、地域のインフラ開発に貢献していく」「メコン地域と日本は、ともに発展するパートナーだ」と語ったと伝える。

 AFPは、日本のインフラ輸出について、日本経済を強化し、海外における日本の評価を高めるという安倍首相の取り組みの重要な要素だ、と解説している。

 また、フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は、日本の製造業企業が、メコン地域、特にタイで多額の投資を行っている、と伝えている。

◆中国の影響力拡大によって日本の取り組みが喫緊のものに
 このところの中国の動きによって、日本にとってのメコン地域の重要性が一層高められていることに、多くの海外メディアが着目している。

 ODAによって、日本は地域への影響力を得ようとしている、という視点は、FT紙、AFPで顕著だ。

 AFPは、中国が外交的、財政的に影響力を増大させているため、地域への影響力をめぐる争いで、日本の取り組み強化が喫緊のものになっている、との旨を語っている。FT紙は、日本は長年の不況と高齢化で財政的に困っているにもかかわらずODA額を増やしたとして、中国の影響力増大を食い止め、また国際法が律するアジアを望むという日本の決意が際立つ、としている。

◆「質の高い」をキーワードとする日本のASEAN援助
 中国もまた、メコン地域を含むASEANとの関係強化に力を入れている。中国の李克強首相は昨年11月、ミャンマーで開かれた「ASEANプラス1(中国)首脳会議」で、中国とASEANの戦略的パートナーシップは、「黄金の10年」を経て、より拡大深化した「ダイヤモンドの10年」に入りつつあると語った。FT紙、AFPがこの点に触れている。貿易面では、2013年には4440億ドル(現在のレートで約54.4兆円)だった対ASEANの輸出入額を、2020年には1兆ドル(同約122.5兆円)にすることを目指している、とFT紙は伝えた。

 またロイターはアジアインフラ投資銀行(AIIB)について、日本と米政府の地域での影響力を浸食するものと見なされている、と指摘。AFPは、AIIBは日本政府が後援するアジア開発銀行(ADB)と張り合うもので、急成長する新興国が利用したがるような融資を提供するものだと語っている。

 これらについて、日本は、「質の高い成長」の実現を追求するとアピールすることで対抗していく構えのようだ。インフラについては、安倍首相はすでに、5月に「質の高いインフラパートナーシップ」を発表している。アジア地域の膨大なインフラ需要に応えるため、機能を強化したアジア開発銀行(ADB)と連携し、今後5年間で約1100億ドル(約13.5兆円)の「質の高いインフラ投資」をアジア地域に提供するとしたものだ。ロイター、AFPがこれに触れている。

 経済産業省などによると、「質の高いインフラ」とは、「一見、値段が高く見えるものの、使いやすく、長持ちし、そして、環境に優しく災害の備えにもなるため、長期的に見れば安上がり」なものだという。

 ロイターはこの「質の高いインフラパートナーシップ」について、「質の高い」、環境に害を及ぼさないインフラ事業を推進する援助計画だとして、AIIBとは対照をなす、と語っている。AIIBのほうの事業は、環境をしっかりと保護するものではないかもしれないと米政府が語っている、としている。

 また、インフラなどのハード面のみならず、ソフト面での取り組みが重要だとして、「新東京戦略2015」には人材育成などにも取り組んでいくことが盛り込まれている。会議では、メコン5ヶ国から「質の高いインフラ投資」や人材育成への強い期待が表明されたという(外務省)。

◆日本は中国との間のバランスを取るために格好の存在
 経済面での結び付きの一方で、中国とASEANのいくつかの国の間には、南シナ海の領有権問題が存在している。「新東京戦略2015」でも、中国の名指しは避けつつ、中国の海洋進出への懸念が表明されている(ロイター、FT紙)。

 ブルームバーグは、今回の会議について、中国の人工島建設など南シナ海問題をめぐり、各国の協力の強化を図ったものだという点に集中して報じた。「新東京戦略2015」において、「双方(日本とメコン5ヶ国)は、地域における海洋安全保障及び海上安全に関する協力を深化することの重要性を再確認した」(外務省仮訳)とされていることに触れている。

 FT紙は、中国との関係では、ベトナム政府の加減した敵意から、カンボジア政府の強力な支持までメコン5ヶ国の間にも大きな開きがある、としている。しかしながら、中国の独断的な姿勢のせいで日本は釣り合いを取る相手として、これらの国にとってより魅力的になっている、と語る。さらに、安倍首相はASEAN諸国の支持の獲得に熱心に取り組んでいるとする。

 別の日のFT紙の記事では、シンガポールの東南アジア研究所のMoe Thuzarフェローが、「戦略レベルで――ミャンマーのような国では確実に――外国とのパートナーシップを多角化することへの関心がある」と語っている。

 AFPは、ASEANに対する日本の姿勢について、日本は善意ある大国と見なされたがっている、と語る。また領有権問題やその他の問題で、中国に反論できる勇敢な国だとの評判に磨きをかけることに熱心に取り組んでいる、としている。

Text by 田所秀徳