安倍首相議会演説:“従来通り謝罪を”英紙 “米を満足させれば十分”米識者

 26日、安倍首相が1週間のアメリカ訪問の旅に出発した。イギリスのフィナンシャル・タイムズ誌(FT)は、首相の訪米は日米の対中関係にも影響を及ぼすものであり、中国に対抗するものであってはならないと指摘した。アメリカのメディアは、FTとは対照的な識者の意見も紹介している。

◆首相の評価は高いが、中国に配慮を
 イギリスのフィナンシャル・タイムズ誌(FT)は、ナショナリスト的な傾向には懸念があるものの、安倍首相は、ここ数十年でもっとも理路整然としたリーダーとして、アメリカでの評価は概して高いと述べる。今回の訪米でも、首相は友達として扱われ、公式晩餐会で歓迎され、議会演説にも招かれると同誌は報じている。

 しかしながら、中国との関係を考えた場合、日米が団結して中国に対抗しているという印象は与えてはならないとFTは述べ、安倍首相の訪米中、中国に対する日米の態度が、3つの場で試されると指摘する。

◆議会演説
 まず最初は、第二次大戦中の日本の行為に言及するであろう安倍首相の議会演説だ。FTは、首相は「日本は十分謝罪した」と考える保守派に属しており、従来使用されてきた謝罪の言葉を、演説では使わないことをほのめかしたと述べる。しかし、侵略者としての日本は、いつ謝罪をやめるのかを決める贅沢な身分にはないと指摘。近代史の過失や欠点の多くをごまかしている中国に説教されるのはもちろん癪に障るが、もし「普通の」国として世界から信頼されたいのなら、首相はじっと唇を噛んで、従来のやり方を踏襲すべきと述べる。

 これに対し、テンプル大学日本校でアジア問題を研究するジェフリー・キングストン教授は、「過去について、首相が誠実に、深く悔いているように話せば、人々はそれで十分と受け止める」と考えている。「中国や韓国は、細部に渡ってチェックを入れ、何を言っても彼らを満足させることはできない」ため、首相がすべきは、アメリカを十分に満足させることだと指摘している(ロサンジェルス・タイムス、以下LAT)。

◆防衛協力
 2番目が、防衛だ。日米は、27日に防衛協力の指針の改定で合意しており、日本の集団的自衛権行使を前提とし、自衛隊の活動を拡大させる内容が盛り込まれている。FTは、これがアンチ中国協定のように映らなければ、害はないだろうとしている。

 一方、金融リサーチ会社『Gavekal Dragonomics』 のアナリスト、トム・ミラー氏は、中国がアジアからアメリカを追い出そうとしており、軍事力増強に努め、必要ならば経済的な影響力を政治にも使おうとしていると述べており(LAT)、これが日米を警戒させているとLATは言う。国際平和カーネギー基金のアナリスト、ジェームス・ショフ氏は、「日本のゴールは、防衛協力を進め、中国への抑止を強化することだ」と話しており(LAT)、安倍首相の訪米時に日米防衛協力が話し合われたことは、中国牽制となる意味合いが強いことを示唆した。

◆TPP
 3つ目は、TPPである。TPPは貿易協定であり、それを装った地政学上の協定ではないことを明確にする必要があるとFTは述べる。同誌は中国には可能な限り早い参加を促し、ルールに基づいたシステムに統合していくべきと述べている。

 これに対し、ワシントン・ポスト紙に記事を寄せた共和党下院議員のポール・ライアン氏は、中国は世界中で貿易協定を交渉中で、自国に有利なルールにしようとしていると指摘。日米は、「世界経済のルールを描くのは、中国?それとも我々?」と自問してきたと述べる。同氏は、日米が組めば、アジア太平洋で弱い者いじめに走り、覇権を再主張する中国に対抗できると述べている。

 FTは、日米が中国を国際社会に引き入れることが、安倍首相訪米の背後にある意義であるべきとしているが、異論もあるようだ。今回の訪米が中国を含めた国際社会にどのように受け止められるのか、注目して行きたい。

Text by NewSphere 編集部