“米国に忠実”日本、AIIB参加見送り 尖閣問題で支持確保のため、と米紙指摘

 中国が主導して設立する国際金融機関「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)。その創設メンバーになるための期限として、中国が設定した3月31日が過ぎた。同日までに参加を表明した国は約50ヶ国に及んだ。アメリカは同盟国に参加を見合わせるよう説得していたが、イギリスやドイツ、韓国やオーストラリアなどが参加を決めた。日本は、AIIBに求められる条件が満たされていないとして、参加を見送った。

◆AIIBにはどのような懸念があるのか
 創設メンバーになる国は、今後、AIIBの枠組みを定める設立協定づくりに参加できる、とされていた。

 麻生財務相は31日の閣議後の会見で、参加には極めて慎重な態度をとらざるを得ないと語った。同相は、AIIBは公平なガバナンスを確保すべきだとしたが、これは中国の単独支配を防ぐことを指しているようだ。AIIBの出資比率は加盟国のGDPに応じて決まるため、GDPの大きい中国は、運営面での影響力が大きくなると見られている。中国がAIIBの融資先を自由に決めて、アジア新興国で影響力を強めるのを日本と米国は警戒している、と日経新聞(31日)は語っている。

 麻生財務相は、加盟国を代表する理事会が個別案件を審査し、承認する必要がある、と述べたことをブルームバーグは伝える。また、融資にあたって、債務の持続可能性、環境、社会に対する影響の配慮が行われることを条件として挙げたという。

 これらは、相手国に対処できないほどの債務を背負わせないこと、環境破壊につながる案件に融資を行わないこと、人権状況に問題のある国に融資を行わないことと推察される。中国はアフリカ諸国などへのODAで、「内政不干渉」を唱え、独裁体制の国へも融資を行い、批判を受けていた。

◆日本政府は引き続き注視の姿勢。水面下の交渉も?
 ロイターによると、政府当局は、期限内に参加することよりも、必要な条件が満たされているかどうかをはるかに重視するとしている。今後、条件が満たされれば、参加できると考えているという。日本の懸念を中国が解消しないかぎり、正式発足後も、参加しない可能性があると、政府筋は述べているという。

「(中国が)AIIBで、適正なガバナンスをどう保証するかを慎重に注視しなければならない、というわが国の立場は変わっていません」と政府筋がロイターに語っている。産経ニュース(31日)によると、安倍首相は31日、「焦って参加する必要はない」と述べたという。

 一部の政府関係者、企業経営陣からは、参加が遅れることによって、AIIBのガバナンス向上への働きかけや、発足後、AIIB出資のインフラ建設計画を受注する上で、不利になるのではないか、との懸念の声が上がっているという。

 麻生財務相は再三再四、中国は日本の懸念を解消していないと語っているが、政府当局者は、日本のAIIB参加交渉が水面下で進行中だと語っている、とロイターは伝える。

◆米政府と懸念を共有する日本政府
 インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ(INYT)紙は、日本は、米政府が表明している懸念を、そのまま繰り返している、と語る。他のアメリカの同盟国の多くが、米政府と袂を分かつ中、日本はあくまでアメリカに忠実に、不参加を表明した、と伝えた。

 米政府は中国の経済的影響力を心配していて、AIIBが国際的なガバナンス基準、社会および環境への保護基準を守るかどうか、依然として不明確であると表明している、とロイターは伝える。表向きの理由はともかく、内心は中国の影響力を心配してのことだ、と読むこともできる。

 世界銀行と国際通貨基金(IMF)は、第2次世界大戦後にアメリカが確立した世界金融体制の2本柱であるが、多くの米政府当局者は、AIIBがそれらの影響力を低下させるという懸念を抱いているようだ、とINYT紙は語る。

 ブルームバーグは、AIIBが、日本とアメリカが牛耳る、創立ほぼ50年になるアジア開発銀行(ADB)の影響力を弱める可能性を持っている、と語る。

◆安全保障問題が大きく影響か
 安倍首相は、イギリスやドイツといった他のアメリカの同盟国がAIIBへの参加を表明した後であっても、日本がアメリカに対して忠実であることは、戦略的理由で重要だと語った、とINYT紙は日本の国内報道を引用して報じた。

 日本政府がアメリカを支持することについては、安全保障関連でのっぴきならない理由があるとし、その筆頭は尖閣問題だ、と同紙は語る。安倍首相は、尖閣問題でのアメリカの支持を確実にすることを熱望しており、日米関係をこれまで以上に緊密なものにしようと努めている、としている。

 首相が「アメリカは日本が信頼できる国だと分かっただろう」と自民党内の会合で述べた、との共同通信の報道をINYT紙は引用している。

 さらに、首相は4月末よりアメリカを公式訪問する。その際には、(米議会演説などで)日米の密接な友好と、日本が地域でより大きな軍事的役割を引き受けることに、ますますやる気になっていることを力説するものと予想されている、と同紙は伝える。それを控えた今、日米関係に水を差すようなことはできないだろう、とほのめかしているのかもしれない。

「AIIBは世界銀行とADBが主導している体制への異議申し立てだ。日本がそのような機関に参加するというのはあり得ない」「アメリカ抜きでそのようなことをすれば、われわれの同盟は損なわれてしまうだろう」と「首相のアドバイザー」が語った、とロイターは伝える。

◆参加せずに協調、という選択肢も
 ロイターは、日本はAIIBに参加するかわりに、ADBのような既存の機関を通じて、共同融資計画でAIIBと協力することができる、と語っている専門家もいる、と伝える。そのようにすれば、日本は、AIIBの資本金に出資することも避けることができるだろうという。

 日本の財政状況が厳しい中、出資できる額は限られてくる。出資額によって影響力が定まってくるとすれば、日本がAIIB参加によって恩恵を受けることは現実的に難しい、という見解が今は支配的だと、NHK NEWS WEB(24日)は伝えている。

 INYT紙によると、米政府内にも、既存の機関を通じての、AIIBとの協調を模索する動きがあるようだ。

Text by NewSphere 編集部