「安倍談話」めぐり割れる世論を海外報道 “誇り取り戻す”と“惨事忘れてはならない”

安倍首相

 安倍首相が今夏発表する戦後70年談話について検討する有識者懇談会が、25日、初会合を開いた。会合には首相も列席し、戦後、日本が行ってきた国際貢献をどのように評価するか、21世紀、日本はどのような貢献をするべきかといった5項目を論点として提示した。菅官房長官は25日午前の記者会見で、この会合が談話作成の出発点であることを強調している。

◆「村山談話」の文言を踏襲するのか、しないのか
 1995年、終戦50年の記念日には、当時の村山富市首相が談話で、「植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました」と述べ、「痛切な反省」と「心からのお詫びの気持ちを表明」するとした。政府の公式見解としては初めて先の戦争を「侵略」と表現したもので、AP通信はこの談話を「画期的な謝罪」だとした。

 終戦60年の記念日に当時の小泉純一郎首相が発表した談話では、これとまったく同じ文言が用いられた。安倍首相が自身の談話でこの表現を踏襲するかどうかが注目を集めている。

 AP通信は、首相は2012年末の(再)就任当初、「村山談話」を見直す意向をほのめかしたが、そのことが中国と韓国の批判を引き起こした、としている。2013年4月に首相は参議院予算委員会で「侵略の定義は学界的にも国際的にも定まっていない」と発言した。

 同年5月、首相は「村山談話については、政権としては全体として受け継いでいく」と語っている。しかし、首相は、これまでのものより未来志向の談話にしたいと語っており、謝罪をどうにかして希釈化するつもりなのだという疑念を生んでいる、とAP通信は語る。

 ブルームバーグは、首相が今年1月、テレビ番組で、「今まで重ねてきた文言を使うかどうかではなく、安倍政権としてどう考えているのかという観点から談話を出したい」と語ったことに触れ、過去の談話の記述を変更する可能性に言及したと伝えた。

◆中国、韓国はけん制する発言
 8月に発表されるこの「安倍談話」に対して、中国、韓国はすでに警戒心をあらわにし、けん制する発言を行っている。

 23日、国連の安全保障理事会では、第2次世界大戦の終結および国連創設70年を記念し、国際平和と安全保障をテーマとする公開討論が開かれた。その席で、議長国の中国の王毅外相は、「反ファシズム戦争の史実は既にはっきりしているのに、真実を認めることをためらい、さらに裁定を覆し、過去の侵略の犯罪をごまかそうと試みる者がいまだにいる」と述べた(朝日新聞)。名指しはしなかったが、日本を念頭に置いた発言だろう。

 また25日には、中国外務省の洪磊・副報道局長が、有識者懇談会会合について触れ、「日本は歴史を正しく認識し、反省する態度を示し、アジアの隣国と国際社会の信頼を得てほしい」と述べた(時事通信)。

 韓国外交部の報道官は24日、安倍首相の談話について、「日本政府は歴代内閣の歴史認識を継承すると公言してきただけに、村山談話や小泉談話の歴史認識から後退してはならない」と述べた(聯合ニュース)。

◆日本国内でも世論は分かれている?
 首相が談話で何をどう語るべきかについては、日本国内でも意見が割れていることをAP通信は伝える。

 AP通信によると、日本の戦中の残虐行為の記述は歪曲ないし誇張されたものであって、いまこそ日本人は国に対する誇りを取り戻すべきだ、というのが一方の意見であるという。ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙(電子版)によると、「植民地支配と侵略」などの表現は、勝者である連合国が押しつけた、戦中の行為に対するあまりにも否定的な評価を反映したものだ、と多くの右派が主張しているという。

 AP通信はその対極として、護憲派リベラルは、日本が韓国を植民地支配し、中国と東南アジアを侵略したこと、またそれが引き起こした惨事を、この国が忘れないことを望んでいる、とした。

 24日、河野洋平氏は、安倍首相は修正主義とのそしりを招かないよう、村山談話、小泉談話で用いられた表現を踏襲するべきだ、と講演で語った。NYT紙が伝えている。

 河野氏はアジア諸国とのより良い関係を求めた穏健派だった、と同紙は語る。「河野談話」を発表したことで有名で、この談話は、大戦中に、韓国およびその他の国の女性が、日本軍の慰安所で強制的に働かせられたことを公式に認めた「画期的な公式謝罪」だとしている。ただし河野氏自身は、「はっきりとした裏付けのないものは書かなかった」と述べ、「強制性」を認める文言は談話に盛り込まなかったとしている(産経ニュース、東京新聞)。NYT紙は、修正主義の右派は、慰安所の女性は普通の売春婦で、強要はされなかったと主張し、この談話をお気に入りの攻撃対象にしている、と語る。

 なお、読売新聞が今年1月中旬から2月中旬に行った世論調査によると、日本の歴代首相が中国や韓国に対して、過去の歴史的事実について謝罪を繰り返してきたことに関しては、これまでの謝罪で「十分だ」が81%を占めたとされる。

◆「結論ありき」ではなく、それなりにバランスの取れたメンバー?
 この有識者懇談会は、「20世紀を振り返り21世紀の世界秩序と日本の役割を構想するための有識者懇談会(21世紀構想懇談会)」という長い名称を持っている。16人のメンバーについては、「多様な視点から議論していただくため、歴史や政治に造詣の深い学者、言論界、ビジネス界など幅広い分野、世代の方にお願いした」と菅官房長官が19日の記者会見で語っている。学者10人、財界人3人、報道関係者2人、国際支援活動家1人からなる、とAP通信は伝えている。

 安倍首相と意見の近い人物を集めたのではないか、との批判も一部には見受けられる。AP通信は、メンバーの約3分の1が、首相の政策諮問委員会の常連であると報じる。しかし、中道派のアジア専門家の政策研究大学院大学の白石隆学長と東京大学大学院の川島真准教授、リベラル寄りの毎日新聞の政治部特別編集委員、山田孝男氏が任命されていることで、いくらかバランスが取られている、と語った。

 懇談会の座長には日本郵政の西室泰三社長が就任した。同氏は中国政府要人ともパイプを持つと報じられている。

 25日午前の菅長官の記者会見で、毎日新聞の記者が、16人中10人が過去に自民党政権下で外交政策の有識者として関わっており、自民党の外交政策に理解がある人たちなのではないか、それでも多様な意見を集められるのか、との質問をした。これに対して長官は、人選で多様性が十分確保されていることを強調し、「毎日新聞社の人も入っています」と切り返して笑いを誘った。

Text by NewSphere 編集部