「とにかく賃上げだ!」安倍政権の圧力に海外メディア注目 大企業・正社員だけとの懸念も

 大企業の賃金を決める「春闘」が大詰めを迎えつつある。労使間の攻防が進む中、主要海外メディアも、アベノミクスの命運を左右すると言われる賃上げの行方に注目している。今月から始まった交渉の結果は、来月明らかになる。

◆首相の賃上げの圧力は「ゴルフコースにまで広がっている」
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、アベノミクスによって円安と株価の上昇が達成され、日本の輸出の競争力は上がったと評価。しかし、国内消費が依然弱いため、経済再生までには至っていないと見ている。英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)も、「日本の労働者たちは消費税の3%アップに苦しむ一方で、企業利益が上がるのを見た。そして、賃金はほぼ上がっていない」と記す。

 春闘は、日本企業の約5分の1に当たる大企業で2月から3月にかけて一斉に行われる労使交渉で、基本賃金を決める年間最大の“ビッグイベント”だ。その結果は、中小企業を含む日本企業全体の賃金を決める「ベンチマーク(基準)」になると、WSJは解説する。特に今年は、政府が企業側に「賃上げ」を強く求めている。賃金が上がれば、消費が活発になり、持続的な経済成長をもたらす、という好循環ができるためだ(CNN)。

「安倍首相は最近、企業のリーダーたちをおだて、脅し、とにかく賃金を上げるようプレッシャーをかけ続けている。それは、企業の大御所たちを招いたゴルフコースにまで広がっている」(CNN)など、各メディアは、政府が積極的に「ロビー活動」を展開していると報じている。「景気回復の暖かい風を全国津々浦々に届けていく」ために賃上げは不可欠だという安倍首相の発言も、象徴的に取り上げられている。

◆政府の見通しは楽観的
 今年の春闘の労組側の目標は、強気の2%から4%のベースアップだとCNNは報じている。WSJは、昨年の2.2%アップに対し、今年は2.4%で合意するというバークレイズの予想を紹介。「予想通りになれば、日本の景気概況は明るくなる。原油安と消費税再増税の延期により、労働者たちが真剣に消費を始めるかもしれない」としている。

 企業側は労組と政府の要請に答えるのか。FTは、賃上げを予定している代表的な企業として、セイコーエプソンと安川電機を挙げている。共に円安の恩恵で業績を伸ばしているが、セイコーエプソンの社長は「(賃上げと)政府の圧力は関係がない」、安川電機の社長は「国の計画に我々も協力しなければならない」と、トーンは異なるようだ。

 また、FTは、「経済再生担当の西村康稔内閣府副大臣は楽観的だ」と記す。西村副大臣は同紙に対し、「全体的に賃上げのムードは非常に強いと思う。消費税増税が行われないため、消費は戻るだろう。需要が伸び、物価上昇が期待できると思う」などとコメントしている。

◆政府主導の賃上げは長続きしないという見方も
 一方で、FTは懐疑的な識者の見解も紹介している。ゴールドマン・サックスの日本担当チーフエコノミスト、馬場直彦氏は「今回の政府・日銀主導の賃上げには、中期的なサステナビリティ(持続可能性)と中小企業への波及効果の点で疑念が残る」と発言。「仮に1、2年成功したとしても、政府がずっと企業にプレッシャーをかけ続けられる保証はない」と、企業の自発的なものではない政府による“強制的な賃上げ”では、長続きしないと見ているようだ。

 ゴールドマン・サックスは、「今年の賃金は昨年よりもわずかに上がるだけ」だと予想。日銀のインフレ目標2%に貢献できるレベルではないと見ている。

 WSJも、もし春闘が「残念な結果」になり、また賃上げが中小企業や非正規雇用者まで広がらなければ、「政治家たちの間に警報が鳴り響く」と記す。そして、「そのような状況になれば、日銀は早ければ4月にも追加緩和せざるを得なくなるかもしれない」としている。

Text by NewSphere 編集部