ODA新大綱、海外も他国軍支援に注目 “中国への対抗のため”と報道

安倍晋三

 政府は、公的資金を用いて行う開発途上国への「政府開発援助(ODA)」について、その理念や基本方針を定めた「ODA大綱」の見直しを進めてきた。10日、これまでの大綱に代わるものとして、「開発協力大綱」を新たに閣議決定した。

◆ODAは「未来への投資」
 世界情勢、とりわけ中国の大国化など、アジア情勢が変化するにつれて、日本のODAは新たな使命を帯びるようになってきた。日本の国益に資するよう、より効果的な運用が求められている。

 2013年に閣議決定された「国家安全保障戦略」は、「国際協調主義に基づく積極的平和主義」の立場を打ち出した。そのための手段として、ODAを戦略的に活用するという方針が示されている。今回の改定は、これを踏まえて行われたものだ。新大綱では、「現在の国際社会では、もはやどの国も一国のみでは自らの平和と繁栄を確保できなくなっている」「(わが国の発展にとって)開発協力は最も重要な手段の一つであり、『未来への投資』としての意義がある」とされている。

 海外メディアも、今回の改定の狙いに着目した。ロイターやAP通信は、日本政府は外交および国家安全保障で、国際的により積極的な役割を果たすことを求めて新大綱を採用した、と報じた。

◆他国軍の支援が可能であると明示
 1992年に策定され、2003年に改定されたこれまでのODA大綱では、「軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避する」と規定されている。新大綱ではそれに、「民生目的,災害救助等非軍事目的の開発協力に相手国の軍又は軍籍を有する者が関係する場合には,その実質的意義に着目し,個別具体的に検討する」という条項が加えられた。紛争後の復旧、災害救助など、非軍事目的であれば、他国軍の支援も可能である、という方針を明示したものだ。

 各メディアは、安倍首相が集団的自衛権の行使容認の実現に向けて、積極的に取り組んでいることを併せて伝えている。また『ディプロマット』、AP通信は、日本政府が「武器輸出三原則」を見直し、「防衛装備移転三原則」として、武器輸出を可能としたことにも触れた。『ディプロマット』は、他国軍の支援を可能とした大綱の改定は、今日の課題に見合うよう日本の防衛体制を拡充するという、安倍首相のより広範な計画に合致している、と指摘する。

 岸田外務大臣は、閣議後に行った記者会見で、これまでも同様の条件のもと、他国軍に対する協力を行った例があると語っている。これまで十分明確でなかった、他国軍に対する非軍事目的の協力に関する方針を、新大綱で改めて明確化したというのが実態だ、と述べ、これまでとの間に大きな断絶がないことを強調する。ロイターも、外務省官僚の言葉として同様に伝えた。

◆対中国
 ウェブ誌『ディプロマット』は、尖閣問題をめぐって日中関係が冷え込む中、これにより、日本がアジア太平洋地域の多くの国と、密接な軍事協力を打ち立てるために利用できるツールが増えることになるだろう、と述べる。

 APは、大綱の「東南アジアへの援助を優先」という部分に関し、「地域で中国の進出が拡大している状況の中」との表現を加えている。

 ロイターは、新大綱採択のタイミングは、「中国が、とりわけ資源の豊富なアフリカ諸国に対し、対外援助を拡大する決定を行ったのと同じ」と指摘している。

◆軍事目的に転用される恐れも
 また、ロイター、AP通信は、日本からの援助が、軍事目的に転用されかねないという懸念があることを伝えている。神奈川大学の石井陽一名誉教授はロイターに、「政府は、援助は災害救助といった用途だけに向けられる、としています。仮に、トラックやヘリコプターが、そのような計画で購入されたとしましょう。問題はそれらが、そのような目的だけに使用されるよう確実にすることが、不可能だということです」と語っている。

◆減少するODA額。変わりつつある公的支援のかたち
 日本は1989年にアメリカを抜いて世界一の援助国となり、1991年から2000年の間、その地位にあった。外務省によると、日本のODA予算(一般会計当初予算)は1997年度の1兆1687億円をピークとして、その後は減少傾向にあり、2014年度では5502億円となっている。

 2013年(暦年)の実績では、支出総額が2兆2184億円で、アメリカに次ぐ第2位、借款の返済分を引いた支出純額では、1兆1502億円で、アメリカ、イギリス、ドイツに続く第4位である。実績が予算よりも多いのは、一般会計のほかに、特別会計、出資国債、財政投融資などからも資金が出ているためだ。

 新大綱は、開発途上国への民間資金の流入が公的資金を大きくしのいでおり、開発途上国の経済成長を促す大きな原動力となっている、と指摘し、官民連携での開発協力を推進する、としている。

Text by NewSphere 編集部