日本、タイ軍事政権は遺憾も、経済連携強化へ 中国の伸張見過ごせず…米紙分析

 タイ軍事政権のプラユット首相が来日し、9日に安倍首相と首脳会談を行った。両首相は日タイの経済関係の強い結びつきを再確認し、タイ鉄道プロジェクトへの日本の参入など、経済連携をより高める方向で意見を交わした。

◆中国の影響を危惧
 今回ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、中国を意識した日本の出方に注目している。

 同紙は、タイは東南アジアにおける日本の製造業にとって最大のハブであったが、2011年の洪水と、政治的混乱で、多くの日本企業がインドネシア、インド、カンボジアなどに事業を移したと説明する。タイ投資委員会のデータによれば、2014年の日本からタイへの直接投資は37%減少。それに比べて、中国の投資は8倍の伸びを見せており、すでに2013年に、中国が日本に代わってタイの最大の貿易相手国となったという。

 昨年タイでは、政治的混乱を収拾するとして、軍が戒厳令を発令しクーデターを宣言。日本政府は「非常に遺憾」と述べ、ハイレベルの外交的交流を停止した。ところが7月に南北の鉄道網の開発を中国が行うとタイ政府が発表。中国がタイへの影響力を強めるなか、関係修復を望む安倍政権は、「民主主義への回帰」を求めながらも、結果として軍事政権との接触を再確立する方向へ動いたのだという(WSJ)。

 タイの英字紙ネーションによれば、プラユット首相の来日の間に、両国の担当大臣がタイの東西鉄道網の開発への日本の協力の意図を表した覚書に調印。とりあえずは、日本としては面目を保てたようだ。タイのバンコク・ポスト紙は、プラユット首相が滞在中に東京大阪間を新幹線で移動する予定であるとし、新幹線技術供与の可能性にも注目している。

◆信頼回復がミッション
 ネーションは、タイの専門家の言葉を引用し、首相の訪日のミッションは、「日本の投資家の信頼を得る助けとなり、多方面にわたり両国間の協力を固めることだ」と説明。その言葉通り、短い滞在の間、プラユット首相は日本の政財界のメンバーと多くの会合を持ったようだ。

まず、政情不安のイメージを拭い去るため、日タイ友好議員連盟の会長である塩崎厚労相に、日本の観光客とビジネスはしっかり保護し、政府は人権侵害や権威の乱用なしで法を執行すると説明(ネーション)。経団連の榊原会長には、東南アジアの経済成長のために、日本企業による技術支援と投資を要請した。プラユット首相は、三井住友銀行、三菱自動車、ホンダ、丸紅などの幹部とも会談。包括的改革に着手することでタイは前進すると述べ、日本の投資家に信頼を求めた(バンコク・ポスト)。

◆タイを通じた近隣国への投資
 ネーションは、今回の訪日で、特に大きな進展はないと述べるが、『ダウェー経済特区』プロジェクト推進の重要性の再確認がなされたことは、意義があったとしている。

 ダウェー経済特区は、ミャンマーの南部に位置する、タイとミャンマーの共同プロジェクトで、その総合計画の作成に日本が関わることが会談後の共同声明でも触れられている。特区は日本が開発を行う予定の東西鉄道網の西端に位置し、開発をするジョイントベンチャー企業の株式を、日本が取得することもありえるという(WSJ)。

 日タイ関係が新たなる市場とビジネスを日本にもたらすのか。今後の進展に注目したい。

Text by NewSphere 編集部