米教科書の慰安婦記述、外務省の修正要請が裏目? 米歴史学者19人が抗議声明

 米教育出版社「マグロウヒル・エデュケーション」が発行する教科書の慰安婦に関する記述をめぐって、日本政府は外務省を通じ、同社に対して修正を求めている。同書は慰安婦について、「日本軍が最大20万人にも及ぶ14歳から20歳までの女性を強制的に募集、徴用した」「天皇からの賜物として提供した」などと記している(読売新聞)。こうした点に修正を求めたとみられる。

 これについて、アメリカの歴史学者グループが、歴史の検閲だとして、日本政府を非難し抗議する共同声明を発表する。韓国メディアが伝えた。

◆中心人物ダデン教授は、安倍政権は領土拡張主義と批判
 聯合ニュース(英語版)によると、声明を発表するのは、アメリカ歴史協会(AHA)に所属するアメリカの大学の歴史学者19人だ。朝鮮日報などによると、主導したのはコネチカット大学のアレクシス・ダデン教授である。ダデン教授は、1月16日付のニューヨーク・タイムズ紙(電子版)のオピニオン欄で、安倍政権は「領土拡張主義的」で、尖閣諸島などの領有権を訴えていると主張し話題となっていた。

 聯合ニュースなどによると、声明は、AHAが来月発行する機関誌に掲載される予定だ。聯合ニュースには、声明がそれに先立って送られてきており、内容を詳しく報じている。10日現在、ワシントン・ポストやヒューストン・クロニクルなどの米紙もこれを報じている。

◆「日本の性奴隷制は確立された歴史」
 聯合ニュースによると、声明では、「われわれは歴史学者として、第2次世界大戦中に大日本帝国陸軍に軍属して、性的搾取の残酷な制度の下で苦痛を受けた、婉曲的に『慰安婦』と呼ばれる人たちについての、日本国内外の歴史教科書の記述を抑圧しようとする日本政府の最近の試みに対し、失望を表明する」とされている。

 また、安倍政権が「慰安婦に関する確立された歴史に対して声高に疑問を呈し、学校教科書における言及を排除しようと追及している」ことも非難しているという。

 声明は、学術研究と被害者の証言により、「慰安婦制度の本質的特徴が、政府後援の性奴隷制に相当することについては、議論の余地なく示されている」と断定している。

 このように、声明を発表する歴史学者グループは、慰安婦が強制された性奴隷だったということを「確立された歴史」と捉えている。その根拠としている「学術研究」とは、「中央大学の吉見義明教授が日本政府の公文書について行った綿密な研究」だという。そのため、声明には「日本の歴史学者らを支持して」との表題が付けられている。

 なお「被害者数」が何万人だったか、何十万人だったか、また、軍が慰安婦の調達で果たした役割の正確なところについては、論争があるとしている。

◆ダデン教授の独自の「学問の自由」観
 中央日報は、ダデン教授にメールでインタビューを行い、その抜粋を編集して掲載した。ダデン教授は、声明を出すことになった動機について、マグロウヒルの高く評価されている教科書への日本政府の干渉が、学問の自由に対する脅威として懸念されるためだとしている。

 しかし、その後で述べられている、「学問の自由」に対する同教授の考えは、一風変わったものだ。同教授は「すでに証明されており、広く受け入れられている歴史について、それが正しくないと思わせようとする企ては、学問の自由に対する脅威」だとしている。「すでに証明されている歴史を消し去ろうと試みることは――また特に、公表した研究成果のことで、歴史家を直接の標的とすることは――学問の自由への脅威である」と語っている。

 なお、朝鮮日報では、声明がAHAの年次総会で満場一致により採択された、と報じられているが、中央日報のインタビューでは、年次総会で(賛同者が)非公式な形で集まることにした、と語られている。またAHAが公表している、年次総会の議決内容にそのような事実は記載されていないことから、誤報が考えられる。

◆アメリカは学問の自由を強く支持と発表
 こういった状況の中、米国務省が8日、アメリカは学問の自由を強く支持すると発表したと、韓国の英字新聞コリア・ヘラルド紙(聯合ニュース配信記事)が報じた。

 それによると、国務省のある代表者が、「歴史問題については、全ての関係者に癒しと和解を促進する仕方でアプローチすることの重要性を、われわれは強調していく」と語ったという。また、「原則問題として、われわれは学問の自由を、民主社会の基礎として、確固として支持している」と語ったという。どのような代表者がどのような場で語ったのかについては、記事は明らかにしていない。

 報じられている発言を見るかぎり、国務省は日本の名指しを避けているようだが、記事は当然、日本が教科書の修正を要請した問題と絡めて報じている。日本の行動は、残虐行為のうわべを取り繕おうとする試みだと見られている、と記事は語っている。さらに、その行動のために、日本の学問の自由についても疑問が生じる、という批判の声がある、と語っている。

Text by NewSphere 編集部