“人質事件を政争に使うな”欧米紙批判 NYT紙は憲法改正と自衛隊規制緩和を懸念

 国会で人質事件に対する安倍政権の対応を問う議論が行われている。これに関して、ニューヨーク・タイムズ紙は、人質事件を政争の具にしていると批判。ドイツのドイチェ・ヴェレも、通常は日本人の人質事件に不快感を示す国民も、ジャーナリストの後藤健二氏の死には深い哀悼の意を表しているものの、安倍首相はこの事件を自分の目標を達成するために利用していると感じていると述べた。一方で、フィナンシャル・タイムズ紙は、この人質事件で安倍首相の憲法改正計画が損なわれてはならないとしている。

◆与野党が人質事件を政治的な駆け引きに
 ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙は冒頭で、「日本人の人質2人の死が政争の具にしようとする闘いが始まった」として、人質事件を政治的な駆け引きに用いる日本の与野党を批判した。

 国会で、安倍首相は「国民の声明と財産を守る任務を全うするため」に憲法改正草案を示していると述べている。そのことが、人質事件のショックから冷めきれていない有権者に取り入ろうとして、与野党間の激しく闘っている例の一つと、NYT紙は指摘。ジャーナリストの殺害ビデオ公開の2日後には、加熱した議論が繰り広げられたと述べた。

 人質の安全は釈放を望むことでまとまった連帯は、後藤氏の殺害により崩壊したと述べた後、安倍首相の人質事件に対する野党の批判と安倍首相の答弁を取り上げ、人質事件を巡って激しい議論が行われていることを伝えた。

 さらに、安倍首相を含む保守派は、この殺害事件を自衛隊の規制を撤廃するというかねてからの目標の遂行に利用していると批判。自衛隊が在外邦人の救出をできるように法整備を進め、在外公館や防衛駐在官の情報収集機能の強化を図りたいとする安倍首相の希望に対して、NYT紙はその実効性に疑問を投げかけている。「専門家は、日本がそういった救出作戦を遂行できるかどうか、経験不足や限られた情報収集能力という欠点を引き合いにして、疑問を呈している」。

◆人質事件を目的達成に利用
 ドイツの国営放送局であるドイチェ・ヴェレは、「憎むは人の業にあらず、裁きは神の領域。-そう教えてくれたのはアラブの兄弟たちだった」という、後藤健二氏がツイッターに投稿したメッセージを紹介。このメッセージが、彼への哀悼の意を共有するために、何万回もリツイートされている、と述べながら、通常は危険地域に渡航する日本人に対して不快感を示す日本人が、この事件にどれだけ深く影響されたかを示すものだとしている。

 そして、これだけの影響を及ぼした今回の人質事件を、安倍首相は自分自身の目的達成に利用していると思っている、とドイチェ・ヴェレは伝える。

 さらに、日本の中東政策の変更は、安倍首相が始めたわけではないものの、2人の殺害にもかかわらず、安倍首相は対テロ政策の継続を表明した、と伝えた。

◆積極的平和主義の推進を
 一方で、フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は、人質事件によって安倍首相の憲法改正計画を損なわれるべきではない、としている。

 2人の人質の殺害は日本国民に衝撃を与えたものの、安倍首相は賢明に慎重な反応を示し、「テロリストに罪を償わせる」と約束しながらも、急激な政策変更を推し進めることはしなかった、と伝えている。

 FT紙は、この事件の影響として、日本は受動的な国際的役割を維持すべきだとする意見を煽るリスクがあると指摘しながらも、どれほど平和主義であっても、イスラム過激派の暴力から免れないことを浮き彫りにしており、現時点での日本の対応は、新たな孤立ではなく、国際的な関与に根差すものでなければならない、という結論を示した。

Text by NewSphere 編集部