商業捕鯨再開を安倍首相が示唆 “日本文化”を理由に、国際判決に背くのか?海外メディア反発

 安倍晋三首相は9日、国会で、商業捕鯨を再開するため努力を続けると発言した。

 日本の調査捕鯨については今年3月、国連の国際司法裁判所(ICJ)が科学的ではなく商業捕鯨にあたり中止すべきとの判断を下している。これに対し安倍首相は、「鯨の生態を保全するため欠くことのできない科学的データを集め調査を続けることで、商業捕鯨の再開へ繋げたい」「その目標に向かって、国際社会の理解を求めるより一層の努力をしたい」との意見を示した。

 これに対し、複数の海外メディアは、国際的な裁判所の判断にも関わらず日本の首相が商業捕鯨再開を望んでいる、と報じている。
 
【政府による「鯨肉」キャンペーン】
 農林水産省は9日、鯨肉の普及イベントを始めた。その一環として、林芳正大臣が捕鯨擁護派の国会議員とともに鯨肉の叩きを食べる様子が報道されている。日本国民に捕鯨と鯨肉を食すことは、自国の文化なのだということを知らしめることが目的のようだ。英ガーディアンによると、イベント期間中、同省の食堂では鯨肉のフライを無料で味見できるという。しかし、同省のHPにはイベントの詳細についての積極的な説明はみられない。

 日本国内の鯨肉の消費量はここ数十年激減している。もはや国民食とは言えない、と同紙は報じている。しかし、捕鯨擁護団体の政治への影響力が強く、捕鯨活動には税金からの補助金が使われている。

 安倍首相は9日、海洋哺乳類を冷酷に乱獲しているとの海外の認識とは違い、捕鯨を行っている地域は漁の期間が終わる時には必ず鎮魂の儀式を行い捕獲の対象を敬っていると説明した。「このような日本の文化が理解されないことは残念だ」(ガーディアン)

【鯨肉販売中止の動き】
 大手ネット通販の楽天はICJの決定後、出店者に同サイトでの鯨肉とイルカの肉の販売を禁じた。

 林氏は、鯨肉を販売することは「国際的にも国内的にも何ら法に触れるものではない」とし、楽天や多くの企業に販売を中止する動きが広がっていることは残念だと述べた(ガーディアン)。 

【日本の捕鯨活動はなぜ認められないのか】
 2010年オーストラリアが日本を訴えた裁判で、オーストラリア側は、日本の捕鯨活動は調査の名を借りた商業目的のもので、1986年の商業捕鯨禁止の協定に違反していると主張。日本は、オーストラリアが自国の価値基準を日本に押し付けようとしていると反論した。

 ICJによると、日本は2005年から「JARPA Ⅱ」という調査捕鯨の名目で、3600頭のミンク鯨を南極海で捕獲した。しかしその間、調査による報告はごく限られた数だけで、実際の捕獲頭数との十分な整合性が認められない、とICJは判断した。

 一方、ノルウェーとアイスランドは捕鯨国だが、協定を拒否し漁を続けている。また、協定でも、先住民による捕鯨は捕獲数を制限したうえで認められている。

 日本は判決を受け、2014-15年の南極海での調査捕鯨中止を決めた。しかし今後、活動の内容をより科学的なものに改善することで捕鯨活動再開を望んでいる。なお判決には、北西太平洋と日本沿岸での漁は含まれていない。

 日本政府は、鯨の生息数が商業捕鯨には十分なものだと一貫して訴えている。

解体新書「捕鯨論争」 [amazon]

Text by NewSphere 編集部