米軍高官、アジアの“クリミア化”に警鐘 米紙は米中の“共同統治”を提案

 中国が南シナ海・東シナ海で領土拡大路線を取る中、「アジア危機」が現実味を帯びてきたと捉える報道が、ここに来て海外メディアの間で目立ち始めている。

 フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、アメリカ太平洋艦隊のハリス提督が19日、インドネシア・ジャカルタで開かれた安全保障会議で、「アジアは今、クリミアのような危機にさらされている」と警告したと、大きく報じている。

 一方、ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は同日付けで、アジア太平洋地域の安定のためには、アメリカは中国と主導権を分かち合うべきだという論説を掲載。オーストラリアのザ・オーストラリアン紙も、オーストラリアは地域の一員として日中との新たな関係を模索すべきだとする論説を展開している。

【中国の領土拡大主義がアジアを「クリミア化」する】
 ハリス提督の発言は、会議に出席した中国軍部の高官や日本の自衛隊幹部、東南アジア諸国の高官たちを前にして発せられた。

 「世界的な緊張関係をもたらしているクリミア情勢を考えてほしい。ここに集う全ての国は、アジア太平洋地域でそのようなことが起きないように努力しなければならない」とクリミア情勢を引き合いに出し、中国と日本、東南アジア諸国が島々の領有権を争っている現状に対する懸念を表明した。そして、「私が心配するのは、中国の領土拡大主義だ」と続けた。

 ハリス提督はまた、FTの記者に対し、中国が軍事力を使って周辺諸国を恫喝しているために、「アジア太平洋地域の緊張はここ30年で最も高まっている」と語ったという。

 これに対し、中国側は「直面する緊急のリスク」に対応しているだけだと反論した。会議に出席した中国軍部の高官は、「一部の国が、その戦略的目標を達成するために争いを優位に運ぼうとしている。我々はそれが戦争に結びつかないように、状況を正しくコントロールしているだけだ」と、暗に尖閣諸島をめぐる日本の動きを批判するような発言をしたという。

 日本、アメリカ、ASAN諸国は、南シナ海や東シナ海での軍事力の行使を規制する「行動規範」の策定を目指すなど、多国間協議を通じた事態の打開を図っている。ハリス提督もこの日、「領土問題の解決の鍵は多国間協議であり、二国間協議ではない」と主張した。しかし、中国は当事者同士の二国間協議にこだわっており、解決の糸口は見つかっていない。

【NYT「アメリカは中国とリーダーシップを分かち合うべき」】
 NYTは、ハリス提督が懸念するような危機の解決策を探る論説を展開し、アメリカは、中国と日本が軍事衝突した場合の選択肢を、オバマ大統領の「公式声明」によって明確にすべきだと主張する。

 同紙は、第一の選択「傍観する」を日米の信頼関係が崩れ、北京を喜ばせるだけだとして却下。対する「無条件に日本を支援する」という選択肢も、それによって中国が引き下がる可能性は低く、むしろ「引き分け」で実利を取ることを狙っているとして疑問を投げかける。

 そこで、NYTが提案するのは、現在アメリカが握っている地域のリーダーシップを、「中国と分かち合う」というオプションだ。中国にアメリカが現在握っている覇権を分配する代わりに、軍事力の行使に制限を設けることなどを受け入れさせる。こうした「共同統治」が、現実的な方策ではないかという。ただし、それでも中国が軍事力の行使をやめなければ、アメリカは断固として戦うべきだとも主張する。

【豪紙も日中の関係改善を求める】

 一方、アボット首相が来月、訪中・訪日を予定しているオーストラリアのザ・オーストラリアン紙は、20日付で今後の豪日・豪中・日中関係を考察した論説を掲載した。

 同紙は、尖閣問題を契機に日中の経済的な結びつきも弱まっていると分析。オーストラリアにとっても、両国は1位と2位の貿易相手国であり、両国の関係悪化は他人ごとではないと懸念する。

 そのうえで、日本と中国自身がそうしているように、オーストラリアも日中と良好な関係を保ちながら、東南アジアの新興国と「プラス・ワン」の関係を結ぶべきだと、専門家の分析を交えて主張する。そして、「オーストラリアを含む地域の国々にとっても、日中の緊張緩和は利益になる」と、日中両国の関係改善を求めている。

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Text by NewSphere 編集部