日本は“右傾化”しているのか? 田母神人気、永遠の0ヒット…海外紙の警戒感高まる

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙が、日本の若年層の右傾化について報じた。東京都知事選でナショナリスト候補の田母神俊雄氏が若年層の支持を集めて善戦し、国会議員も若いナショナリスト議員が多く台頭し、また中韓に批判的なメディアコンテンツが若年層に売れている、とのことだ。

 同紙は、現在の日本は長年平和主義を堅持してきた民主主義国であり、右傾化とはいえ初期段階であるとしながらも、大きな転換期に入りつつあるとして注目している。

【まだ最大の関心事ではないが・・・】
 2月24日の日本経済新聞の調査では、国家安全保障が安倍政権にとって最も重要な政策課題だとした回答者はわずか6%であった。これに対し社会保障という回答は38%、経済改革は30%にのぼった。

 一方、昨年10月の政府調査では、中国に対し親しみを感じないという回答が、つい4年前には59%に過ぎなかったのに対し、過去最高の81%となった。

 日本の保守層からすれば、中国や韓国が歴史問題について日本の謝罪努力を認めようとしなかったことが原因であり、中韓はそれを否定している、という。また衛藤首相補佐官の「失望したのはこちら」発言問題にも触れ、結局は日本を見捨てるのではないかという、アメリカへの不信も増大していると報じる。

 なお産経ニュースは、図書館で「アンネの日記」などが大量に破られている事件について、中韓のメディアが、「アンネの日記を小説だとみなす」日本人ナショナリストの仕業と示唆していることを報じている。

【ナショナリスト御用達コーナー】
 ウォール紙は、そうした漠然とした不安が大衆文化に影響しつつあると論じている。中韓に否定的かつセンセーショナルな見出しを掲げる雑誌・書籍が急増し、多くの書店に専用コーナーができるほどだという。神風特攻隊を描いた、百田尚樹市(NHK経営委員)原作の映画「永遠のゼロ」が、8週間興行1位のヒットを記録したことも挙げられている。

 また、ナショナリスト雑誌「Will」が、2年間で30%部数を伸ばしており、読者層もかつて50代以上男性に限られていたものが、多くの女性を含む20代、30代の読者が増えているという。

 なお「永遠のゼロ」については、作品の支持者は戦争の悲惨さを説いていると評し、批判者は政策の失敗による無駄死にを美化していると評する、という。英エコノミスト誌も同作品について触れており、「主人公のエリートパイロットは生き残って軍を転覆させようとする」が、「彼が自分の使命を受け入れ、栄光の炎と思われるものの中で死ぬときにのみ、真のヒーローになる」という主旨だと解説した。ユネスコ記憶遺産に特攻隊員の手紙などを提出した南九州市の知覧平和博物館も、この解釈を支持しているようだという。

【田母神候補の支持基盤】
 都知事選の田母神候補についてウォール紙は、伝統的メディアはほとんど泡沫候補と切り捨てていたはずが(※誇張されすぎとも思われるが)、朝日新聞出口調査によると20代投票者の24%が投票しており、勝者である舛添新知事の3分の1の票を得るところまで行った、と報じている。

 また、都知事選に限らず「アメリカのティーパーティーと同様強硬な保守的見解を持つ、主に30代・40代の候補者の新しい波」が台頭しているとして、「自虐史観教育を改める」という宮崎謙介氏や、「核武装してアメリカに頼らない独力防衛をする」という武藤貴也氏ら、自民党の新人国会議員を紹介している。

【右傾化が原因というのは飛躍かも】
 ただ、自民党は前回衆院選の圧勝により、119人の新人議員を得るに至っていた。急増した新人議員にたまたま強硬なナショナリストが含まれることと、若い政治家層全体が右傾化しているかどうかは別であろう。いずれにしても支持率の高さにより、新人議員以前に「自民党全体が、安倍がしたいことをする」「安倍に口答えする人は非常に少なく、政策はスムーズに採用される」状況であることは、同紙も述べている。

 また、田母神候補の出口調査をした同じ朝日新聞では、低かった投票率のさらに24%というのは多いとは言えず、また田母神候補の若年層支持率が高いからと言って、同候補の主張のうちナショナリスト部分こそが受け入れられたのだと限定はできない、と警告する論説が寄稿(菅原琢・東大准教授)されている。

なぜ日本は誤解されるのか(ニューズウィーク日本版ペーパーバックス)

Text by NewSphere 編集部