中国有力教授“安倍政権が続く限り、日中関係は冷えきったまま” 海外紙には「日中開戦なるか?」との記事も

 安倍晋三首相は22日、スイスで開かれている世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、「アベノミクス」に代表される日本の経済成長戦略をテーマにした基調講演を行った。その中で、尖閣諸島の領有権問題や自身の靖国神社参拝で揺れる日中関係についても語った。海外メディアも緊迫するアジア情勢に影響をおよぼす発言として注目している。

【2014年のアジア情勢は100年前の第一次大戦前夜に似ている?】
 安倍首相は基調講演で、「話し合いと法を順守することによってのみ、アジアと世界の平和は保たれる」と、中国との軍事的な対立は望んでいないことを表明した。

 英ガーディアン紙は、安倍首相は併せて、現在の日中の緊張関係を「第一次大戦前のイギリスとドイツの関係に似ている」と、ちょうど100年前のヨーロッパ情勢になぞらえて表現したと伝えた。タイム誌も、第一次大戦と絡めた文脈で安倍首相の言葉を紹介した。記者団の質問に答えて「何らかの争いが限定的に、しかも不慮の事態から起きるかもしれない」と語ったとし、第一次大戦の原因となったサラエボ事件を引き合いに出した。

「戦争によって多くを失うのは中国だ。無用な争いは、北京政府が政権を維持するために必要としている経済成長を阻害するだけだ」

 同誌は『日本と中国は開戦するのか』というセンセーショナルな見出しのもと、こうした強い言葉を安倍首相の発言として掲載している。ただし、記事全体としては(戦争は)「絶対に起こらない」という論調に終わっている。

【靖国参拝への理解も求める】
 安倍首相はまた、会議に出席した世界の経済界のリーダーたちに向け、自身の靖国参拝についても理解を求めた。「靖国神社は戦犯や第二次大戦のその他の戦没者だけでなく、第一次大戦など明治元年以来の戦没者を祀っている。さらには、国籍に関係なくすべての戦争被害者を慰霊している」と説明した。

 また、ロイター電によると、自身の参拝の前にも現職の首相たちが65回も参拝している事実を強調した。続けて「先人たちは皆、日本が再び戦争を起こさないことを誓うために訪れている。それに異論を挟む余地はない」という言い回しで、自身の参拝の意図を語った。

「今アジアでの軍拡を抑えなければ、誰のチェックを受けることもなく(軍事力が)拡大し続ける恐れがある」

 安倍首相は中国を名指しこそしなかったものの、ガーディアン紙はこの発言を「安倍首相が中国に対して軍事費の削減を求めた」という論調で取り上げた。同紙はさらに、「軍事費は、完全に透明性を持って公表されなければならない」「力と強制ではなく、話し合いと法治によって争いを解決すべきだ」という安倍首相の言葉を引用し、中国が一方的に防空識別圏を設定したり、詳細を明らかしないまま軍事費を拡大し続けていることを暗に批判したと報じた。

【中国教授、安倍政権が続く限り日中関係は冷えきったままと主張】
 一方、ロイターは中国側の反応も併せて伝えた。会場の別のパネルに登壇した中国の学者が、安倍首相を「トラブルメーカー」と呼び、名指しで激しく批判したという。

 批判の主は、中国政府にも強い影響力を持つという復旦大学の呉心伯教授だ。「安倍首相は北朝鮮の指導部と同じだ」と声を荒らげ、「二国間の信頼関係が低いのは、靖国参拝で人民の敵意を煽った安倍首相のせいだ」と糾弾した。

「二国間の政治的関係は、しばらくは冷えきったままだろう。いや、安倍政権が続く限り、むしろ凍りつく」。呉教授の見方は極めて悲観的だ。

 安倍首相は、呉教授が危惧するような事態を避けるため、二国間でクライシスコミュニケーション(危機的状況下での話し合い)の仕組みを作るべきだと呼びかけた。ロイターによると、これについては呉教授も同意見だという。

 相変わらず日中の応酬が続く中、英国際戦略研究所長のジョン・チップマン氏はロイターのインタビューに答え、「静かな軍同士(military-to-military)の話し合いで確かな妥協点を探るべきだ」と解決策を提案している。

愛国・革命・民主:日本史から世界を考える (筑摩選書)

Text by NewSphere 編集部