【汚染水、海に流出】東電対応に限界、政府が国費で対策へ

 1年以上も前から警鐘が鳴らされていた問題が、ついに、専門家の「非常事態」のお墨付きを得るにいたったようだ。

 福島第一発電所で、放射性物質を含んだ汚染水が海洋に流出している問題について、原子力規制庁の金城慎司東京電力福島第一原子力発電所事故対応室長は6日、ロイターのインタビューでその緊急性に憂慮を示し、「東電には、この危機に対する切迫感が欠如している」と厳しく糾弾した。

【地下水汚染の原因は?】
 2年前の震災以降、東電は放射線「汚染水」の処置に苦慮してきた。原子炉の冷却に使われる、放射濃度の極めて高い原子炉建屋の水については、汲み出して敷地内のタンクに詰めることで「封入」してきたはずだった。

 ところが、数ヶ月前には、原子炉付近で採取した地下水から高濃度の放射性物質が検出され、さらに、ここにきて、この水が海に漏れ出ている公算が高いと明らかにされたのだ。

 従来、発電所の背後の山々から染み出し、発電所の地下を通って海に流れ出す地下水に関しては、東電は「地下深くを通るため、汚染されない」との見方を示してきた。

 この地下水が汚染された原因について、専門家は、敷地海側のトレンチ(地下道)にたまった水が漏えい源であるとの見方を示しているという。根拠は、先月の採取時に検出された放射性セシウムの濃度が、事故直後の平成23年4月に検出された値と合致すること。トレンチから漏れて、底部から地中に拡散しているとの憶測だ。

 なお、トレンチ内の汚染水1リットルあたり、セシウム137(半減期約30年)は16億ベクレルだった。原子力基本法に基づく国の基準値は1リットルあたり90ベクレルである。

【東電の対応は後手後手】
 地下水から放射性物質が検出された後、東電は海への流出を防ぐため、護岸沿いに水ガラスと呼ぶ特殊な薬液を注入して土を固め、遮水壁をつくる工事を進めていた。

 ところが、この遮水壁が「ダム」の役を果たして水位を上昇させ、深度地下1.8mに設置された遮水壁を超えて海に流れ出たのが今回の顛末と見られている。東電は遮水壁の増強と1日あたり100トンの汚染地下水の汲み出しなどの対応策を協議しているが、敷地内を埋め尽くさんばかりの汚染水のタンクを考えれば、これらの策がしょせん、「その場しのぎ」に過ぎないのは明白だと専門家は指摘している。

 そもそも、今回の発表にしても、細切れのデータを小出しにするいつもの手法で、煙幕を張るような態度には非難が集まっているという。すでに、東電の対応能力を超えているとの声もあるようだ。

【大丈夫なのか? 太平洋への放射性物質の流出】
 気になる、放射性物質の流出量とその危険性だが、ストロンチウム、セシウム、トリチウムのいずれについても、平常に稼動している原子力発電所でも許される程度の量であり、太平洋の広大さを思えば、人間の健康には問題のないレベルだという。

 グローバル・ポストは、震災後、カリフォルニアの雨水、ミルク、植物から、福島原発から放出された放射性物質を検出した米カリフォルニア大学バークレー校原子力工学科のエリック・ノーマン教授も、この点には太鼓判を押していると報じている。

 しかし、現時点では問題ないとしても、収束の目処が立たないことを危険視する声は高いようだ。 東京大学大気海洋研究所の植松光夫教授は、「流出した汚染水の正確な濃度と量がわかるまでは、海への影響を云々するわけにはいかない」との見解を示しているという。

【東電の限界? 対応の主導権は政府に移行か】
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、地下水漏出の収拾に、ついに政府が乗り出したと報じている。菅義偉官房長官は7日午前の記者会見で、安倍首相が同日午後、経産相に国費による対策の実施を指示することを明らかにした。

 対策は、原子炉建屋への地下水流入を防ぐために、周囲の土を凍らせて遮水壁をつくるのが中心となるという。菅官房長官は会見で「これだけ大規模な凍土による遮水壁は世界でも例がない。国も一歩前に出て実現を推進する必要がある」と強調したとされる。

 とはいえ、同紙は、いずれの方策をとるにしても、地下水の流れが変わったり、土壌の軟化による建物の倒壊の危険性が生じたり、莫大なコストと電力を要したりと、なんらかの問題は避けられないという専門家の指摘を紹介している。

 原子力規制委員会の田中俊一委員長は、最終的には、汚染水は、処理をして放出濃度基準以下にした上で海に捨てることが必要になるとの見解を示しているという。

 グローバル・ポストによれば、震災当時、緊急対応として、日本政府が東電の汚染水の海への廃棄を許可した際、近隣諸国や地元漁民の強い批判にさらされた。

 汲み上げ貯蔵、地下でのせきとめ、海への流出・・・選択肢は少なく、ハードルは高いといえる。

Text by NewSphere 編集部