高校レベル未満の新入生が30倍 カリフォルニア大学で入学テスト復活論

カリフォルニア大学バークレー校|cdrin / Shutterstock.com

 カリフォルニア大学(UC)では、受験要件から学力テストを撤廃してから6年が経過した。しかし近年、学生の数学力が深刻なレベルまで低下していることが判明。事態を危惧した教授らがテスト復活を求めるUC理事会宛ての公開書簡を発表し、大きな注目を集めている。

◆共通テストを廃止 目的は格差是正
 UCは、カリフォルニア州の学術・科学分野のニーズに応える州立大学として創設され、10のキャンパスを擁する世界最大級の公立大学システムだ。単一の大学ではなく、各キャンパスが独自の運営体制を持っている。

 UCでは2020年まで、SAT(またはACT)と呼ばれる共通テストのスコア提出を受験生に義務づけていた。しかし同年5月、UC理事会はこの試験要件を一時停止し、2025年までに完全廃止することを全会一致で可決した。廃止の理由は、テスト対策講座を受講する機会のない学生、特に有色人種や低所得世帯の学生に対し、スコア提出要件が不利に働く可能性があるというものだった。

◆中学レベルにも達していない…… 教員の切実な訴え
 テスト復活を求める公開書簡を発表したのは、STEM分野(数学、科学、テクノロジー、工学)を中心とする1400人超のUC教授らだ。書簡では、「現在は教員が中学校レベルの数学を教え直さなければならないほど深刻な学習準備の格差が見られる」と指摘。「各キャンパスには限られたリソースしかなく、支援できる学生数にも限りがある」と訴えている。

 この主張の根拠となったのが、UCサンディエゴの学術評議会グループが2025年秋に発表した報告書だ。これによると、2020年から2025年にかけて、高校レベル未満の数学力しか持たない新入生が約30倍に増加。そのうち70%は中学校レベルを下回っていたという。(ロサンゼルス・タイムズ紙、以下LAT)

 また、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(以下WSJ)によると、2025年秋には新入生の12人に1人が、小学校から中学校レベルの内容を学ぶ補習数学課程に振り分けられていたという。

 LATによると、2020年当時、SAT廃止後はUC独自の試験創設を検討する方針も示されていた。しかし、その後の調査作業部会が実現までに時間がかかり過ぎると結論づけ、新試験は実現しなかった。一方、ハーバード大学やスタンフォード大学を含む有名難関校も同時期にテストを廃止していたが、多くはパンデミックによる混乱への対応が理由だったこともあり、2024年から2025年にかけて相次いでテストを復活させている。

◆多様性か学力か? 選抜基準に賛否分かれる
 サンフランシスコ・クロニクル紙によると、共通テスト復活を求める声に対し、UCバークレー校法科大学院のジョナサン・D・グレーター教授は、SATのスコアを考慮することは、UCの教育から最も恩恵を受ける可能性のある学生ではなく、試験対策講座を受講する余裕のある高所得世帯の学生を優遇することにつながると批判する。

 また、どの学生を受け入れるべきかを決定する際には、数学の成績だけを基準にすべきではないと主張。支援できる学生数に限界があるのであれば、その課題に対処することこそが学生と教員双方の利益になるとしている。さらに、UCはSAT廃止以降、過去最大級に多様な学生層を受け入れており、再び試験要件を課せば大学が州の多様性を反映しにくくなる可能性があると訴えている。

 一方、共通テスト復活に賛成するUCバークレー校の数学教授スベトラナ・ジトミルスカヤ氏とズベツドゥリナ・スタンコヴァ氏は、現在の方針が州の次世代の科学者や技術者の育成を脅かしていると主張する。両氏は、準備が著しく不足している学生を高度なプログラムに受け入れることは誰の利益にもならず、本来成功できたはずの多くの学生の入学機会を奪う結果になっていると指摘した。(WSJ)

 さらに、志願者に求められる非標準化された記録は、出身高校での甘い成績評価や人工知能(AI)が作成したエッセイの影響により、ますます信頼性を失っていると指摘。SATは学力準備度を測るうえで、依然として不可欠な全国基準に基づく指標だと述べ、世界水準の教育を提供するというUCの使命を果たすためには、入学選考方針は厳格であるべきだと主張した。(同)

 LATによると、カリフォルニア大学入学審査委員会のメンバーは、共通テストの受験要件を再検討すると発表している。学術評議会側は今後1年間かけて作業部会を設置し、SATやACTに加え、州の学力試験の活用も含めて検討を進める方針で、今後の行方が注目される。

Text by 山川 真智子