冷房ないフランス、暑い日は「窓・雨戸を閉める」!? 驚きのしのぎ方

レンヌ、7月1日|Jeremias Gonzalez / AP Photo

 年々暑さが厳しくなるヨーロッパの夏。日本ほど湿度は高くないとはいえ、気温が30度を超えればやはり堪える。しかもクーラーのない家庭が多いため、身体を冷やすのもひと苦労だ。実際、2021年の統計によれば、フランスにおけるクーラーの普及率はわずか26%。では、フランスの人々はどうやってこの暑さをしのいでいるのだろうか。

◆クーラー購入台数の増加
 今世紀に入ってから「猛暑」はもはや珍しいものではなくなり、フランスでは年々クーラーの購入台数が増えている。たとえば2020年には、それまで年間約35万台だった購入数が、一気に80万台を超えたという。

 ウェスト・フランス紙によれば、全体のクーラー普及率も、2015年には11%だったのが、2021年には26%へと大きく伸びた。2021年に行われた調査では、対象となった家庭の4分の1が「2年以内に購入したい」と答えており、現在はさらに普及が進んでいる可能性が高い。

◆医療機関すら過半数はクーラーなし
 エプシローン誌によれば、施設ごとのクーラー設置率は、2020年時点でオフィスが64%、商業施設が55%。数字上は半数を超えているように見えるが、実際には公務員として働く筆者の義妹の職場にも、国際企業に勤める友人のオフィスにもクーラーはなく、筆者が住むフランス北部では、クーラーのない職場は珍しくないのが実情だ。

 カフェやホテル、レストランに目を向けても、クーラーを備えた施設は全体の46%にとどまる。驚くべきことに、医療機関ですら設置率はわずか41%。交通機関にいたっては14%とさらに低く、夏にパリを訪れた人は、地下鉄の熱気に驚いたかもしれない。筆者はふだんトラム(路面電車)をよく利用しているが、クーラーはなく、ガラス張りの車両の窓も開かない構造で、夏はまるで動く熱帯植物園のようになる。学校に至っては、クーラーの設置率はわずか7%に過ぎない。

◆基本の暑さ対策は「閉める」こと
 では、エアコンがあまり普及していないこの国では、どのように暑さをしのいでいるのだろうか? まず、建物内での基本的な対策は、窓や雨戸をしっかり閉め切ること。ヨーロッパの建物は日本の家屋に比べて壁が厚く、室温を保ちやすいため、この「閉める」が有効なのだ。もちろん、ずっと締め切ったままではなく、気温の下がる時間帯に窓を開けて空気を入れ替える必要がある。

 そして、1日のうちでいちばん涼しくなるのはいつか。結論から言えば、それは朝だ。フランスは日本でいえば北海道よりも北に位置しており、夏至の時期には日がとても長い。筆者が住む北フランスでは、日没が夜10時を過ぎることも珍しくない。そのため、日本なら夜と感じる20時ごろでも、空は明るく、気温もまだ高いままだ。

 この「閉めてしのぐ」暑さ対策は、筆者の経験ではフランスだけでなく、スペインやイタリアでも共通している。ただし、個人的にはこの方法で快適に過ごせるのはせいぜい気温が30度台前半まで。また、下の階ならまだしも、熱がこもりやすい上層階では、あまり効果がないと感じることもある。

◆欧州ならではの「涼」を求めて
 フランス政府は、猛暑に対応するための「SOSコール」専用番号を設け、熱中症対策や個別の相談に応じている。もしすでに家の中の気温が上がりすぎている場合は、「エアコンのあるショッピングセンター、図書館、映画館、美術館、市民プールなどに出かけるように」と呼びかけている。(フランス・アンフォ

 こうした場所に加え、ヨーロッパならではの「涼を取れるスポット」もある。たとえば、教会や大聖堂、古城などの石造りの建物は、天井が高く、分厚い石壁のおかげで気温の変化が少なく、夏でもひんやりと感じられる。また、公園や庭園にも、背の高い木々が生い茂るエリアが多く、いくぶん心地よく感じられる。

◆自治体による対策
 フランス各地の自治体では、2017年以降、猛暑への備えとしてさまざまな対策を講じている。エアコンを備えた市営施設がある場合は、気温のレベルに応じてそれらを開放する措置も取られている。

 たとえば南部の港町マルセイユでは、猛暑を受けて市民プールの無料開放を実施したほか、ビーチへのアクセス時間や公園・庭園の開園時間を延長する対応を決めた(フランス・アンフォ)。

 さらに、局地的に最高気温が41度に達すると見込まれている7月1日には、全国の約4万5000校のうち1896校が休校を決定している(フランス・アンフォ)。

Text by 冠ゆき