世界的な出生率低下の理由は? 国連「望まないのではなく、選べない」

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 国連人口基金(UNFPA)が発表した2025年世界人口白書で、世界の一定の割合の家庭で、望むだけの数の子供を持てない現実が浮き彫りになった。親になりたくないわけではなく、親になれないという構造的な問題が存在する。

◆望む家族の形、5人に1人が実現できず
 国連人口基金は、実施した14か国1万4000人を対象に出産に関する意向調査を実施した。それによると、回答者の5人に1人が、理想とする家族の形を実現できていない。内訳を見ると、9人に1人は「子供をもっと望んでいるが持てない」と答え、7%は「予定より多く持つことになりそうだ」と回答した。

 対象となった14か国は、韓国やイタリアといった少子化に悩む国から、ナイジェリアのような出生率の高い国まで実に幅広い。これらの国の人口を合わせると世界の3分の1に相当する。所得水準も先進国から途上国まで多様で、まさに地球規模の実態調査といえる。

 国連人口基金事務局長のナタリア・カネム博士はBBCの取材に応じ、「世界で前例のない出生率の低下が始まっている」と警告を発した。

◆最大の障壁は経済的制約
 報告書によると、多くの人が2人以上の子どもを持ちたいと考えているにもかかわらず、それを実現できない現実がある。その主な理由は、経済的不安とジェンダー不平等だ。実際、調査では半数以上の人が、住居費、育児費用、雇用の不安定さといった経済的な理由から、望むより少ない子どもしか持てないと答えている。

 なかでも、子供を持つことの最大の障壁は経済的困難である。回答者の39%が経済的な理由で子供を諦めたり、諦めざるを得ない状況にあると答えており、この傾向は国によって大きく異なる。たとえば、韓国では58%が経済的理由を挙げたのに対し、スウェーデンでは19%にとどまった。

 スウェーデンでは男女とも子供1人につき480日間の有給育児休暇を取得でき、祖父母などに譲ることも可能だ。こうした手厚い支援制度の有無が、数字上の差となって如実に表れている。

 ジェンダー不平等に関しては、女性が職場で平等に扱われないこと、また育児や家事の負担を主に女性が担っていることが、子供の数に大きく影響している。仕事と家庭を両立できる柔軟な労働環境が整っておらず、女性がキャリアか母親かの「二者択一」を迫られる状況では、子供を持つ決断が難しくなる。家事労働の不平等な分担が要因であると答えた女性は男性のほぼ2倍だった。

 一方、不妊を理由とした人々の割合は少ない。不妊や妊娠が困難であることを理由とした人は全体の12%。国別ではタイが19%、アメリカが16%、南アフリカが15%とばらつきはあるものの、経済的理由と比べれば少数派となった。

◆給付金は逆効果との見解も
 カネム氏は「問題なのは願望がないことではなく選択肢がないことであり、個人と社会に大きな影響を与えている。それこそが真の出生率の危機だ」と指摘する。有給休暇、誰もが利用できる不妊治療、そして支え合えるパートナーの存在が重要だと説く。

 一方、多くの国では、出生率を上げるため、赤ちゃんが生まれた際に支給される一時金や、育児費や住宅費の負担を軽減する短期的な取り組みといったインセンティブを試みているが、こうした施策の多くは効果が薄く、支援としては不十分であり、かえって逆効果になる可能性すらあると報告書は警告する。

 なぜ逆効果になるのか。カネム氏は「自分の生殖に関する選択が誘導されていると感じたときや、政策が強制的だと認識されたとき、人々は反発し、子供を持つ可能性が低くなることがわかっている」と説明する。「答えは選択肢を制限したり、誰が選択できるかを選んだりすることではなく、すべての人に本当の選択肢を広げることにある」と述べる。(英ガーディアン紙

Text by 青葉やまと