スピード違反者の車に「速度制限装置」、米国の州で導入の動き
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アメリカのバージニア州が同国の州で初めて、速度違反の常習者に対して速度制限装置の装着を義務付ける法案を可決した。装置は車両が制限速度を超えることを物理的に防止するもので、2026年7月から施行される予定だ。
◆違反行為を技術で抑制
バージニア州で可決した法案では、裁判官は常習的な速度違反者に対し、免許取り消しや懲役刑の代わりに、車両への速度制限装置取り付けを命じることができるようになる。
「北バージニア安全な道路のための家族会」のマイク・ドイル氏は、ワシントン・ポスト紙(3月27日)に対し、「この制度によって裁判官は、人間の行動パターンを変える新たな選択肢を手にすることになる」と話している。
アメリカでは速度超過が原因で毎年1万人以上が命を落としており、多くの運転者が日常的に制限速度を守らない実態がある。米自動車メディアのドライブ誌によると、バージニア州だけでも2023年に2万5274件の速度関連事故が発生し、449人が死亡、1万3474人が負傷したという。
◆すでにスクールバスなどに導入
装置は「インテリジェント・スピード・アシスタンス」と呼ばれ、GPS、デジタルマップ、車載の標識認識システムを活用することで、走行中の道路の制限速度に合わせて車の速度を自動的に制限する。ワシントン・ポスト紙によると、この技術は約20年前から実用化が進み、現在ではスクールバスやメトロバスなどですでに導入されている。
装置の費用は違反者が全額負担することになる。ただし、経済的に余裕のない場合は費用が免除される。装置を不正に改造したり、別の車を運転したりすると軽犯罪となり、最長1年の懲役刑が科される可能性がある。
ドライブ誌によると、実際に装置を搭載した車を運転した経験がある、同州のパトリック・A・ホープ下院議員(民主党)は、「操作は簡単で、一度取り付ければ速度制限を超えることは物理的に不可能になる。これで道路はより安全になるだろう」と述べている。
◆カリフォルニア州では却下
首都ワシントンでは昨年、バージニア州と似た法案が成立し、今年9月から実施される。メリーランド州とワシントン州でも同様の対策が検討されている。一方、米カー&ドライバー誌は、カリフォルニア州ではギャビン・ニューサム知事(民主党)が昨年、(新車への警告装置の搭載を義務づける)類似の提案を却下したと振り返っている。
保険研究所の研究者イアン・レーガン氏は昨年夏、バージニア州が導入を検討している速度制限装置を実際に試した。レーガン氏はワシントン・ポスト紙に、「考え方を切り替えてみると、これまでの運転よりもリラックスできることに気づいた」と話す。
一方でドライブ誌は、制度の具体的な運用方法が法案に明記されていないと指摘する。運転免許停止を無視する人がいるのと同じように、別の車に乗り換えるといった抜け道が簡単に見つかる恐れがある。また同誌は、速度監視システムが本当にドライバーの速度超過癖を直せるのか、と技術面での疑問も投げかけている。
災害などの緊急時には速度制限を超えて避難したい場合もありそうだが、他者の命を守るうえで、違反常習者の速度抑制のメリットは大きいと判断されたようだ。