サラエボ、「危険」レベルの大気汚染 人口30万人の都市がなぜ?
靄に包まれるサラエボの街(1月22日)|Armin Durgut / AP Photo
ボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボ地域に1月下旬、大気汚染による警戒態勢が宣言された。人口がそれほど多くなく、これといった汚染を引き起こす産業もない地域だが、町は霧とスモッグに覆われ、大気汚染指数は危険レベルを大きく上回っている。
◆インドに次ぐレベル 小国の大気汚染深刻
バルカン諸国の一つ、ボスニア・ヘルツェゴビナでは1月21日、首都サラエボの大気汚染指数(AQI)が320となり、サラエボ県当局はすべての住民に屋外での活動を制限するように勧告した(AFP)。AQI粒子レベルが100を超えると「不健康」、300を超えると「危険」と判断される。
サラエボの汚染レベルの急上昇はたびたび起きており、昨年12月にも発生。ロイターによれば、この時はサラエボの100倍の人口を抱えるインドの首都ニューデリーに次ぐレベルだったという。
◆地形も影響? 汚染の原因とは
人口30万人以上のサラエボには、1990年代のボスニア紛争により公害を引き起こす産業は破壊されてほとんど存在しないとされる。専門家によれば、大気汚染の原因は別にあるという。
環境保護団体「エコ・アクチア」のアネス・ポディッチ代表は、最大の問題は家庭の暖房だとし、質の悪いストーブで湿った薪を燃やすことが大気汚染を引き起こしているとしている(AFP)。
古いディーゼル車の使用も、大気汚染を悪化させているという。ロイターによると、昨冬も大気汚染が悪化しており、当局は古い車の使用を禁止すると公約したが、この対策は実施されていない。
人間の活動だけでなくこの地域の地形も大気汚染を悪化させているとロイターは指摘する。サラエボは山と丘に囲まれた谷間に位置し、気温の変化が通常と異なる逆転層が形成されやすい。一般に、高温の大気は密度が低く、上に移動し対流が起こるが、逆転層があると上の方の密度が低くなり、対流は起こらない。そのため地表付近に冷たい空気と自動車や化石燃料から出る汚染物質がとどまる。これが霧と混ざり合って何日も続くため、冬になると町は汚染に悩まされることになる。
◆寿命にも影響…… 対策遅れる
公害が地域住民に与える影響は深刻で、2019年発表の国連の調査によると、バルカン半島の19都市で記録された早死にの20%は大気汚染が原因だったという。この調査では、大気汚染の結果、住民の寿命は最大1.3年縮んでいると指摘されている。さらに、大気汚染は気候変動で悪化しており、呼吸器疾患、心血管疾患、糖尿病、がんのリスクを高めるとされる。
サラエボ県は、これまで公共交通機関やエネルギー効率に投資していると述べてきたが、対策は進んでおらず、人々からは不安の声が上がっている。12月の大気汚染悪化の際にロイターが県にコメントを求めたが、返答はなかったという。
スイスの空気質関係の事業を行うIQAirによれば、ここ数日のAQIは200以下でピーク時と比べ小康状態にある。しかし、サラエボ大学数理学部の元学部長で大気問題の専門家、ムリス・スパヒッチ氏は、化石燃料の使用をなくし、交通量を減らすことでしか、大気汚染は解決できないと語っている(ロイター)。