海外から日本の「空き家」に移り住む人たち 田舎の格安古民家も、リノベで再生

Wako Megumi / Shutterstock.com

 日本の地方部では、増え続ける空き家に悩む集落も少なくない。人口が減る以上は解決しづらい状況だが、思いのほかグローバルな流れが解決に導くかもしれない。日本文化にひかれた海外の人々が空き家を格安で購入し、入念な手入れを経て愛しの我が家にリノベーションする事例が報告されている。

◆入念な手入れで宿泊所にリニューアル
 アメリカのベントン夫妻は、2021年にルイジアナ州の小さな農場を手放し、日本のしまなみ海道の離島、大三島に渡った。妻のダニさんが、米CNBCニュースにその顛末を寄稿している。2人は1953年に建てられた古民家を、7500ドル(約110万円)で購入したという。

 長年放置されていた家屋は、大がかりな修繕が必要な状態だった。2人は知人の手を借りながら、6ヶ月で改修を終えた。修繕費用として、約2万9000ドル(約440万円)を要したという。2人は住み込みでリノベーションを終えると、昨年11月に宿泊施設の「ベントン・ゲストハウス」としてオープンした。

 古民家はレトロな雰囲気に仕上げられ、いわゆる昭和レトロな内装で昔ながらの日本を思わせる。宿泊客からの評判も上々で、開業から現在までに、すでに約1万4000ドル(約210万円)の収入を得ることができた。ベントン夫妻が購入しなければ無価値だった古民家が、今では旅人たちが疲れを癒やし、語らう場として復活を遂げた。

◆96万円で手に入れたマイホーム
 英タイムズ紙は、「日本では、世界でも類を見ない規模の空き家問題が起きている」と指摘する。その数はおよそ1000万戸、つまり全国の住宅の15%に相当するとの推算もあり、放置すれば治安の悪化や崩落の危険も懸念される。活用は急務だ。

 そんななか、宿泊施設ではなく、自宅として空き家を改装した例もある。タイムズ紙が取り上げるのが、イギリス人のルパート・シングルトンさんと妻のアサキさんの事例だ。かつてはシンガポールや香港で写真家として働いていたルパートさんは、仕事環境の変化で土地に縛られなくなったのを機に、日本の九州の農村部への移住を決めた。5000ポンド(約96万円)の破格の値段で、築100年を超す古民家を手に入れた。

 移住は簡単ではない。同紙は、「外国人が日本の不動産を買うのに障壁はない。しかし、言葉や文化の壁はある」と指摘する。それでもルパートさんは、伝統的な建物の魅力と、自給自足への憧れから古民家を選んだという。

 古い家屋にも再生の道はあるとするルパートさんは、「たとえ私の家のように、100年以上前の古民家であってもです。伝統的な建築技術を学べばいいだけのことなんです」と語る。障子貼りから囲炉裏の手入れまで何でもこなすルパートさんは、追加で購入した2軒目の空き家も含め、修復作業を計5000ポンド(約96万円)の予算で済ませることができた。

◆トラブルを乗り越えて
 オーストラリアの9ニュースは、日本の空き家に注目する外国人の買い手が増えてきている、と指摘する。購入価格を抑えられるだけでなく、日本らしい古民家の魅力にひかれる人も多いのだという。

 オーストラリア・ブリスベンの高校で日本語の教師をしていたチャニさんは、日本の田舎で空き家生活を送ることを思い立ち、昨年4月に渡日した。和歌山県で築40年の中古住宅を2万豪ドル(約200万円)で購入したところ、待っていたのはトイレの水漏れやシロアリの被害など、トラブルと格闘する日々だった。それでも憧れの古民家生活を諦めなかったチャニさんは、リフォーム費を含めても3万5000豪ドル(約350万円)の低価格で愛しのマイホームを手に入れた。

 こうして入念に手入れされた元・空き家は、かけがえのない住処になっている。大三島に移住したベントンさんは、CNBCへの寄稿で、「大三島は、到着した瞬間から我が家のように感じられました。今となっては、よそで暮らすことなんて考えられません」と綴る。

 海外から日本の田舎へ移住する人々が、思わぬ形で空き家再生の一翼を担っている。

Text by 青葉やまと