LVMH本社襲撃も 支持されない仏マクロン大統領の年金改革

パリのLVMH本社に侵入したデモ参加者(4月13日)|Lewis Joly / AP Photo

◆支持されない年金改革
 抗議行動が続くなか、マクロン大統領は15日、年金改革法案に署名した。年金制度の財源確保のため、2030年までに年金支給年齢の62歳から64歳へ引き上げるという施策は、今年の9月1日から段階的に実施されるとのことだ。月々1400ユーロ(約20.5万円)という満額を受給するには、43年の勤務期間(資格必要期間)が求められる。

 年金改革は、再戦を果たした2022年の選挙における、マクロンの公約の一つであったが、国民の多くは反対していた。日本同様フランスでも高齢化が進み、近い将来、年金制度が破綻するという危機意識が年金制度改革の背景にある。財源確保の代替案としての支給額のカットや増税はより大きな反発を買う可能性もある。一方、64歳という年金支給開始年齢は、欧米諸国などと比較すると低いのも事実だ。

 今回の法案においては、憲法の「49条3項」を用い、国民議会での採決なしで、ある意味、強制的に採択されたことも、さらなる反発を呼んだ。その状況を受け、マクロン大統領は17日、国民に向けたテレビ演説において、年金改革の重要性を改めて主張するとともに、国民に対して3つのアクションプランを提示した。国民の怒りを鎮めるという思惑があるようだ。その内容は、グリーンテックへの投資を含めたフランスの「再工業化」の促進、不法移民や犯罪対策の強化、教師の雇用環境の改善といったものだ。ほかにも、大統領は報道番組のインタビューに応じるなど、国民の理解を得ようとしているが、法案の強行採決の事実もあり、格差への不満と相まって国民の反発はそう簡単には収束しないであろう。

Text by MAKI NAKATA