「世界最強」の日本のパスポートは「最高」ではない 各ランキングを考察

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◆オルタナティブなランキング
 ビザなしでより多くの国を訪問できるというのは非常に大きなメリットであり、日本をはじめとする強いパスポートが特権的な有利性を持っていることは間違いない。ビザをオンラインで申請できる場合もあるが、多くの場合、ビザは居住国の大使館で申請することになっている。資金や収入の証明などを含む書類の準備、大使館とのアポイントメント、ビザ申請費用など、さまざまな手間やコストが発生する。

 しかしながら、移動の自由を可能にするパスポートの優位性は、必ずしも多くの国を訪問できるということだけに限ったものではない。ある国のパスポート保持者が別の国での長期滞在、居住、就労を希望する場合などの別の要素も、自由を考える上で重要だ。

 起業家や富裕層に対してのオフショア関連支援や移住支援などを提供するノマド・キャピタリスト(Nomad Capitalist)が公表するランキングでは、ビザなし渡航を50%、市民に対する課税度合いを20%、認知(perception)、二重国籍の可否、個人の自由の要素をそれぞれ10%の比重で計算したインデックスをランキング化している。認知という要素は、世界幸福度ランキングや人間開発インデックス、そのほかの主観的なデータをもとに、ある国民がどのように受け入れられ、認知されているかを加味したものだという。最新ランキングでは、ルクセンブルグとスウェーデンが1位タイ、アラブ首長国連邦、ベルギー、アイルランド、スイスが2位タイという結果。日本は11位タイという位置づけ。二重国籍が認められていないことがスコアに大きく影響しているようだ。

 また、同様のサービスを提供する別のコンサルティング会社のランキングでも、日本はトップ10のランク外。このランキングでもビザなし渡航に加えて、投資、クオリティ・オブ・ライフなどの要素が加味されており、1位がアメリカ、以下ドイツ、カナダ、オランダ、デンマークと続く。

 こうしたオルタナティブなランキングは、自分がすでに持っているパスポートに加えてもう一つのパスポートの取得を考える上での「魅力度」を比べたものだ。日本のパスポートはその保持者にとって幸運なパスポートの一つだが、取得したい魅力的で最高のパスポートというわけではなさそうだ。

 ちなみに、世界でスタンダード化されているパスポートが本格的に導入されたのは、第一次世界大戦後の1920年。現在、パスポートなしの国境管理はほぼ考えられない状況だが、自分の出生にたまたま紐づいているだけの国が発行するパスポートというIDは、その個人に権利を与えるIDとして必ずしも適切なものとも言えない。ブロックチェーンなどのディセントラリゼーション技術の進化などによって、将来的には国家が発行するパスポートというIDに変わるものが生まれる可能性もある。どの国のパスポートを持っているかということとは関係なく、すべての人々が移動の自由とさまざまな人権を保障される未来が、いずれ訪れることを期待したい。

Text by MAKI NAKATA