政治利用されつつあるソウル群衆事故 繰り返される人災事故の背景

5日にソウルで開かれた「ろうそく集会」|Ahn Young-joon / AP Photo

◆事故批判が政治利用される危険性
 今回の事故はもちろん警察の不備が原因とも言えるが、さまざまな不運や要因が重なった悲劇的な事故であったとも言える。そして、やはりと言うべきなのが、この警察批判が政権批判へと飛び火しそうな気配を見せている。

 韓国と言えば、2014年4月に旅客船セウォル号が韓国の南西部沖で沈没し、済州島への修学旅行に向かう途中の高校生を中心に乗客乗員299名が死亡、現在も5名が行方不明という大惨事があった。この事故で韓国は深い悲しみに包まれながらも、当時の朴槿恵(パク・クネ)政権の初動が遅かったことが問題視され、政権は非難の集中砲火を浴びた。そして、朴氏はその後、長年の友人を国政に介入させた疑いによって最終的に罷免となり大統領の座を追われた。

 今回も事故後に警察批判が高まるなか、ソウルの中心部などで「ろうそく集会」と称したデモが週末に行われている。「国は信用できない」といったメッセージを掲げながら警察のみならず政権に対する不信感を訴えている。こうした集会は特に保守政権下で左派市民団体によって主催されることが多く、前述の朴槿恵政権の時も同様であった。

 韓国で一度何か事故や政権の不祥事が起きれば、事象の検証よりも先に批判のターゲットを定め、そこから政府批判として問題が「政治利用」されてしまうことは「よくあること」であり、今回もその兆候が見えることに眉をひそめている国民も多い。

 また、文在寅(ムン・ジェイン)前大統領の任期末期に「検察の捜査権限」を大幅に縮小した法改正の結果、今回の事故で検察は警察の捜査を直接的に行うことができず、警視庁の特別捜査チームが事故現場を管轄する竜山(ヨンサン)警察署を捜査するという異例の事態も起こっている。文前大統領が「自身のスキャンダルの捜査が及ばぬようにするため」との非難を受けたが、まさにこの置き土産が早くも影響を及ぼしているのだ。

 多くの若い命が失われた痛ましい事件を政治闘争の道具にしてはならず、このような事故が二度と起こらぬように検証、改善策が講じられることが先決と言える。

在外ジャーナリスト協会会員 原美和子取材
※本記事は在外ジャーナリスト協会の協力により作成しています。

Text by 原 美和子